ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 187
「ああ、久々に帰って来たのに外泊して悪かったね。」
しゃがみ込み、スニーカーの紐を解きながら、お袋を見上げる…
「何言ってんのよ。小学生でもあるまいし……香澄ちゃんのお宅に?…」
さりげなく聞いてくるお袋…
それでも語尾が小さくなっていた…
「そうだけど、どうかした?」
「ううん、別に…」
やっぱり、何かあるのだろう。
お袋と和彦さん、そこに親父や弥生さんも巻き込んだ、過去に存在した、”何か”が…
…聞くなら、2人だけの今しかない…
僕は思い切ってお袋に尋ねた。
「昔…何があったか…教えてよ…」
キョトンとした顔のお袋だったけど、すぐにそれは驚愕の表情に変わった。
「弥生…?、弥生から聞いたの?…」
弥生さんが青山家にいることを、お袋は知っていたんだ…
「ああ、でも肝心なことは言ってくれなかったよ。それはお袋と親父に聞いてくれってさ…」
「そう…それだけでも、聞いたら、話すしかないわね…」
お袋は観念しながらも、ふっと微笑んで言った。
「今から言うことは全部本当のこと…匠はもういい歳になったんだから、覚悟…する必要はないかな…」
「それも含めて、大丈夫だよ」
「よかった。2人だけのときに話せて」
お袋の後に続き、台所に移動する。
僕の為に準備してくれているのだろう、肉ジャガの甘い香りが僕の鼻孔を刺激する。
「弥生は…あんたと関係を持つ前から、話すべきだって言ってたの…
でもね…父さんのことを考えると…なかなか言い出せなかった……」
僕はティーポットから上がる湯気の向こうのお袋を、じっと見つめた。