ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 19
…照れからきた"パチン"ってことだったのね。
「それに、家でそんなことしたら、匠さん、五体満足ではいられなくなりますからね…」
「…ふへ?それってちょっと大袈裟じゃないか?
そりゃー親父さんにしてみたら、香澄ちゃんみたいに可愛い娘が、どこの馬の骨かも分からない僕なんかを連れて来たら、面白くは無いのは分かるけどさ。」
「うふ♪可愛い娘だなんて、嬉し♪」
…おい、そこかよ?。
うーん。
仔猫でもあり、じゃじゃ馬でもある、よくわからない娘だ。
「新幹線の時間は?」
「品川10時半発車の『のぞみ』です」
今は7時半。
「そうか。準備しないとなぁ」
「時間になったら支配人さんがタクシーを呼んでくれますよ」
…マジか。
「朝ごはんはルームサービス頼んじゃったよぉ〜。ビュフェもいいと思ったんだけどぉ〜、自分で取りにいくのぉ、面倒臭いものねぇ〜」
…はいはい。香澄様の好きなようにしてください。
"ピンポ〜ン"
「あれぇ〜?今さっき頼んだばかりなのにぃ〜早いぃ〜」
香澄ちゃんはスカートの裾をひるがえし、ルームドアへと駆けていった。
…そりゃ、あの初老の支配人にとっては、香澄ちゃんは誰よりも大事なお客様だろうな。
きっと調理場もフル回転に違いない。
「わ〜、匠さ〜ん、見てくださいよぉ〜」
香澄ちゃんは無邪気に喜びの声を上げながら、朝食メニューの乗ったワゴンを押してきた。
…うわぉ
銀色に輝く蓋は小山のようで、僕はそんなものは外国の映画でしか見たことは無かった。
香澄ちゃんに続いて入ってきたボーイが、テーブルにクロスを掛け、銀の食器をセッテイングしていく。
…なんか、凄くね?
僕は今だ自分が素っ裸なのも忘れ、目の前で繰り広げられる世界に呆然としていた。