ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 173
「偶然にでもどこかで再会したんですか?…」
「いえ、柏原先生がご存知だったんです。」
「えっ?親父が?…」
「はい。杏は先生とは連絡をとっていたんですよ…」
「ちょっ、ちょっと待って下さい。杏さんも親父の生徒だったんですか?!」
「ええ、私同様に杏もお世話になりました…」
?…なんで杏さんはそのことを黙っていたんだ?…
「先生、匠さん、そろそろ授業を…」
「あ、そうですね…」
香澄ちゃんが制して、紫さんとの個人授業が始まる。
「じゃ、僕はこれで」
「ええっ!?匠さんっ!?」
驚く香澄ちゃんだが、僕はそれどころではなかった。
「ちょっと用事があるんだ、終わったらね」
「えー」
2人に一礼して部屋を出る。
来た道を戻り、休憩ルームへ…話がある人物は、言うまでもない…
「どうなさったんです?」
都合のいいことに、ソフィアちゃんと萌ちゃん弥生さんは既に部屋にはおらず、杏さんだけがティーカップ片手にくつろいでいた…
「調度よかった。杏さん、僕が柏原先生の息子だって知っていながら、どうして黙っていたんです?」
「…紫から聞いたんですね…」
杏さんはコーヒーカップをテーブルに置き、ばつの悪そうな表情を見せた。
「ごめんなさい、黙っていて…でも、最初は匠さんが、先生の息子さんだとは思わなくて」
「いえ…まあ、似てはいないですから」
「…いろいろと知られたくないこともありまして…お嬢様にも動揺させたくはなかったですし…」
杏さんの言葉も、いつもに比べ歯切れが悪かった。
「それでも、先生の息子さんにお会い出来て、本当によかったと思っています…それで、あの時受けた恩を少しでもお返しできればと…」
杏さんもいろいろ苦労しているんだな…
親父の性格からいって教師という以前に、人として放ってはおけなかったのだろう…