ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 147
「…操には、今こうして青山家で働いていることも、フランスに行ったことも話してないの…もちろん、椿の存在も」
「…どうして」
「…何も言えなかったの…操に」
自分のしたことが原因で関係に傷をつけたくない…弥生さんは、お袋に嫌われたくなくて、距離を置いたのだという…
「それなら今なら…今だったら関係を修復できるんじゃ?…」
僕は空になった弥生さんのグラスに赤い液体を注ぎ入れながら言った。
「駄目よ…もっと駄目…だって今は和彦さんの下で働いているのよ…言える訳ないは…」
え?どうして?…
(『僕は、今までに二人しか女性を知らないんだ…一人は勿論妻である涼香と…もう一人は、君のお母さんである操さんなんだ…』)
和彦さんの言葉が甦る。
「いくらお袋と和彦さんの間に関係があったからといって、それは高校時代の話しだし…もう時効じゃないですか?」
「操はね、ずっと和彦さんとのことは無かったことにしているのよ…たぶん和彦さんのことは思い出したくは無いんだと思うの…」
…和彦さんのことを思い出したくない
もしかして、あの夕飯のとき、話を変えようとしたのはそれが原因だったのか…
でも、何故お袋と和彦さんの間でこんなにも気持ちに差があるのだろうか?
「…弥生さんは、高校生の頃、お袋と和彦さんの仲を取り持とうとしたんですよね?」
「ええ…学校のマドンナ的存在の操と、それこそ血統書付きの良家の息子である和彦さん…
私が仲を取り持たなくても、きっとあの二人は結ばれたと思うは…」
「それなのに…なんで別れることになったんですか?…」
そう言って僕ははたと気づいた…
時を待たずとして、母さんは親父と付き合ったんだよな…
もしかして…このことには、親父も関係しているんだろうか?…
弥生さんは僕の考えを読んでいたのか、表情からわかったのか
「今、匠くんが考えていることが、たぶん正解」
「えっ…」
「匠くんのお父さん…柏原先生の存在よ」
「親父が、なぜ」
「…先生は直接関わったわけじゃないけどね。操は、和彦さんよりも先生のことが好きだったの、当時から」