ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 141
2人泣き崩れる姿を見て、呆気にとられる僕と萌ちゃん。
「…いったいどういうことなんだ?」
「…私もわかりません。私がここに来たときには執事は杏さんだったので」
「失礼しました…」
桜ちゃんは鼻をすすりながら、僕に謝る。
「…それはいいんだけど、その人を巡って、みんなに何があったか、教えてほしいんだけど」
「私がいけなかったんです…お嬢様が彼に思いを寄せているなど気が着かなかった…」
「ううん、桜ちゃんは悪くないよ…何でも話してきたのに、あの時は言え無かったんですもの」
「どうして言ってくれなかったんです?…」
「だって始めはあんなに毛嫌いしていた彼のこと、今さら好きになったなんて言えなくて…」
「私はてっきり、お嬢様は一日も早く彼に出ていってもらいたんだと……だから…」
…大切なお嬢様を思うが故の勘違いだったのだろうか。
香澄ちゃんも、桜ちゃんも、間違ってはいないのだから余計切ない。
「その一樹さんって執事は、香澄ちゃんにとって大切な人だったんだね」
「はい…」
香澄ちゃんも桜ちゃんも項垂れ、視線を逸らす。
「今も…心配ではあるんです…匠さん、一樹さんに似てるから…」
「心配?…そんなこと心配すんな!…」
僕は香澄ちゃんの頭を、小さな子供にするみたいにクシャクシャとかき混ぜる。
確かに涼香さんは魅力的な女性で、溺れそうにもなった。
あの時、あれ程涼香さんが躊躇しなかったら、僕は確実に涼香さんを抱いていただろう…
でもその僕の欲望を踏みとどまらせたのは、涼香さん自身だったのだから…
「大丈夫さ。涼香さんは、香澄ちゃんを傷つけたことを後悔していて、申し訳なく思ってる」
香澄ちゃん、桜ちゃん、萌ちゃんがハッとした表情を見せる。
僕は構わず続ける。
「香澄ちゃん、君は涼香さんと、本当に、心から仲直りすべきなんじゃないかな?」
「…匠さん…やっぱり、見抜かれてましたか…」