ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 129
…それもある種の放任のような気もするが。
和彦さんはそれを善かれと思いやってきたことだろうが、香澄ちゃんにはどうだったのだろうか?
…あのとき、香澄ちゃんが涙ながらに話した不満の数々…僕は和彦さんの考えもそこに含まれると感じた…
「もう少し、少しでも香澄に関わっていれば、今悩む必要なんてなかったと思うんだ…」
「大丈夫ですよ。今からだって間に合いますって…香澄ちゃんが和彦さんのことを大好きなのは、見ていて分かりますからね…」
「そ、そうか?…本当にそう思うのか?…」
「はい!…協力しますよ…和彦さんと香澄ちゃんの仲を修繕しましょう。」
「柏原くん!…」
がっしりと手が握られる…
これが男の約束だ。
目の前の和彦さんは、端正な顔をクシャクシャにして僕とがっちり握手した。
「…いくら香澄の彼氏である君の協力を得たとはいえ、男2人で何ができるかねえ…」
「杏さんや桜ちゃんたちに頼みません?香澄ちゃんのことなら、きっと協力してくれるはずですよ」
「ああ、男の浅知恵よりか彼女たちの意見を聞いた方がよっぽど役に立つかもしれんな…」
納得するかのように、握力を強めてくる和彦さん…
「はい。杏さんは見ての通り男の感性も持ち合わせてますし、桜ちゃんは香澄ちゃんのことを一番よく分かってる子ですからね…」
僕は何気に手を離してくれと、左手でぽんぽんと握っている和彦さんの手を叩く…
「そういう観察眼が鋭いところ…操さんにそっくりだな…]
そう言いながら和彦さんはにっこりと笑い、僕の左手までもを両手で包みこんできた…
「そうですかねぇ…?」
自分がお袋似だとはあまり考えていなかった。
むしろ3人いる妹たちの方が近いような気がしていたのだが。
「ありがとう。やっぱり男が自分以外に身近にいると安心するよ」
和彦さんは僕の手を離すと、ソファにどかっと腰を下ろした。
「もういい時間だね。せっかくだから今日は泊まっていくといいよ」