ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 1060
「ここはバーと言えどもフードもかなりいけるのよ…」
「最近はバーでも摘み程度じゃなくて、食事となる美味しいものを出してくれる店も多いんですよね…」
確か夏子さんに連れて行って貰ったバーもそうだったような…
まああんまし記憶は残ってはいないんだが;…
「いらっしゃいませ…」
あれ?…マスターっていうから、もっと年配の方とばかり思っていたけど…
「ふふ、ビックリしたかな。ここのバーのマスターは女性なのよ」
「へぇ…珍しいかもですねぇ」
美月さんとカウンターに座る。
「素敵な方ですね」
「まあ彼氏ではないですけどね」
…そんなやりとりされるとなんだか一緒に来たのが申し訳ないような。
「カッコイイ人ですよね…なんか男装の麗人って感じがします…」
どこか運転手をしていた頃の杏さんと重なる印象を受けるよな…
「ええ、どっかの歌劇団の男役みたいでしょ?…少女漫画に出てきそうだし…」
「美月さんは…もしかしてそういう趣味があるんですか?…」
まあ僕の周りには多いから、そうであっても驚きはしないけどね…
「“そういう…”のってレズのこと?…、残念ながら私の趣向は、匠くんみたいな好青年にしか傾かないはね…」
「まあ、そうですよね。変なこと聞いてすいませんでした」
「いいえ、私とマスターだとそういう想像もできちゃいますかね」
美月さんもマスターも微笑んで僕を見る。
それにしてもこのマスターのお姉さん、シェーカーの手さばきが凄い。
ついつい見惚れてしまう。
「匠くんも驚くよね」
「ええ…」
「ある意味芸術でしょ…シェーカーを奏でる音が凄く心地いいの…」
僕は目を閉じてそのシェーカーの音に耳を傾ける…
「はい、なんか音楽を聴いているみたいですよね…」
ゆったりとした気分になり、昨日見たお袋と新庄のことでさえ、なんだか何でもないような気がしてきた…