ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 1003
「そっちですか…」
「ラーメンを食べて、代わりに大地に食べられちゃうとか?」
「冗談はよしてくださいよ、大地さんだって奥さんが…」
「いないのよ」
えっ?
大地さんは夏子さんと別れてっきり他の女の人と…
「奥さんを病気で亡くしたのも、脱サラのきっかけだったりするのよね…」
「あっ、そうだったんですか…その人が原因で大地さんとは別れることに?…」
助手席から夏子さんの横顔を見つめる。
「そうね…遠距離恋愛の末の自然消滅だなんてありきたりのこと言っちゃったけど…結局私がフラれたのよ…」
昔のことを思い出すかのように囁く夏子さん…
もしかして気持ちはまだ…大地さんに残っているんでしょうか?…
夏子さんも普通の女の子だった時期があるんだな、と思うと同時に自分が同じ状況に置かれたらどうしようかと考えてしまう。
…僕と巧で同じ気持ちになった人だっているわけだしな。
「冬美は、私のようには…ならないでほしいなって思うの」
「それって…春秋さんと大地さんとのことを言っているんですよね…」
「まあね…これでも当時は散々辛い思いをしたのよ…」
ゆっくりとカーブを切り、車は青山の敷地内へと入って行く…
「それは聞かなくても分かりますよ…僕なんて想像しただけでも縮み上がっちゃいますよ;…」
「ふふ、創業者一族の子が言うセリフじゃないと思うんだけどなぁ」
「それを言われたら…」
車は地下駐車場のスペースに収まる。
へぇ、車で通勤する人はいつもここにこうやってくるのか。
「旦那と大地の家は名の知れた地元の名士、対して私は普通のサラリーマン家庭の三姉妹の次女。とてもじゃないけど釣り合わないって思ってね」