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華が香るとき
官能リレー小説 - その他

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華が香るとき 170

「は? もちろんメイドに決まっているじゃないですか。今更一体何を……?」
予想通りのリアクションだった。洋介は証人を「結構です」と制し、次の質問に移った。
「あなたは、メイドとして働くことで、給料をもらっていますか?」
「はい。十分に頂戴しております」
(よし!)
回答を聞いて、洋介は心の中で頷いた。これで行ける。
「それでは、あなたに給料を支払っている雇用者は誰か、教えてください」
「?」
証人のメイドが怪訝な顔をする。さらに洋介の視界の端で、海女姫が眉をひそめるのが見えた。おそらく洋介の狙いに気付いたのだろう。
「もう一度証人にお聞きします。あなたの雇用者は、誰でしょうか?」
「……木之花桜様です……」
しばらくの沈黙の後、証人メイドは答えた。洋介は「ありがとうございました」と礼を述べてから、雪乃の方を向いて言う。
「裁判長! 検察側の告発は全て、被告人がメイドの皆さんの主人という前提に立っております!」
「ほー。それが何か?」
無表情で聞き返す雪乃に、洋介は続けて言った。
「しかし、只今の証人の証言の通り、皆さんの雇用主は桜さんです。被告人は一カ月の間この島に滞在し、その後で今後どうするか決めることになっていて、少なくとも今はまだ、皆さんとの間に雇用関係はありません!」
「だから?」
心なしか不機嫌そうに洋介を睨む雪乃。だが洋介は、臆することなく最後まで言い切る。
「従って、検察の告発は前提から間違っていて、被告人は無罪であると弁護側は主張いたします!」
洋介の言葉が終わると、部屋の中は静寂に包まれた。静けさの中、彼はメイド達をぐるりと見渡す。
(見たか、この俺様の完璧すぎる理論を? 俺と桜さんの間の取り決めを、メイドである雪乃さん達がひっくり返すのは不可能! この裁判もらった!)
沈黙はどれくらい続いただろうか。それを最初に破ったのは雪乃だった。
「プッ……ドアホが……」
「!?」
雪乃はうつむいて口元を押さえ、笑いをこらえている。それは洋介にとって、想定外の反応だった。
そして、雪乃の笑いが呼び水になったのか、満座は一気に笑い声に包まれた。
「「「アハハハハハハハハハハハハハ!!!」」」
「なっ、何がおかしいんですか!?」
ドヤ顔で場内を睥睨していたのが一転、戸惑う洋介は気色ばんで雪乃の方を見た。だが、彼に応えたのは雪乃ではなく海女姫だった。
「洋介様、少々よろしくて?」
「な、何です……?」
「洋介様は、日本語の読み書きがおできになりまして?」
「?? そりゃまあ、日本の高校生ですから、それなりには……」
再び洋介が、海女姫の意図に戸惑う番であった。海女姫は「結構でございます」と言ってから封筒から一枚の書類を取り出し、あたかも場内に見せ付けるように、頭上に高々と掲げる。
「ここで検察は、証拠物件を皆様のお目にかけたいと存じます」
「!?」
洋介は、海女姫が持っている紙に見覚えがあるような気がした。あれは確か……
続けて海女姫は、手で何かの合図をした。誰が操作しているのか部屋の中が暗くなり、さらに壁の一部に大きく四角形の光が当てられる。どこかに映写機があるのだ。
そして、四角形の光の中に写っていたのは紛れもなく、昨日洋介が雪乃に渡され、内容を全く理解できないまま署名捺印した、あの誓約書だった。
(!!?? なんで、今になって……?)
茫然としている洋介を尻目に、海女姫は朗々たる口調で語り出した。
「皆様、御覧になれまして? この契約書にしっかりと書かれてございます。洋介様は木之花家との取り決め、関係がどうであれ、白菊雪乃様を自らのメイドと認め、御主人様となることを御了承になると……」
「え!? そんなこと書いてあるんですか!?」
初めて聞く内容に、驚き、かつ焦る洋介。もう一度映写機が写す書類に目を走らせるが、ミミズがブレイクダンスを踊っているような文面は、やはり目に一丁字もない。
そんな洋介を、海女姫はいささかの手心も加えることなく、冷酷に責め立てた。
「『え!?』とは聞き捨てなりませんね。洋介様は先程、日本語の読み書きができると仰せになりました。そしてこの契約書は、立派な日本語の草書体で書かれてございます」
「そ、そんなの読めるわけが……」
「では、この署名と捺印をどう説明なさいますか? 紛れもなく洋介様の筆跡に拇印かと存じますが、内容を御理解にならずに署名捺印なさったのですか?」
「そ、そ、それは、俺が雪乃さんに酷いことをしたから、お詫びの気持ちを示すために……」
「これは異なことをおっしゃいますね、洋介様。この契約書のどこにそのようなことが書かれていまして?」
「……書いては、ないかも知れないですけど、でも……」
「書いてはいない、とおっしゃいましたね? 書面に書いていないことは契約として一切の効力を持ちません。まさかそのようなことも御存じなくて、御自分の弁護を買って出られたのですか?」
「…………」
息吐く暇もない海女姫の猛攻であった。何かがおかしい、納得できないと洋介は思うのだが、うまく言葉になってくれない。とうとう何も言い返せなくなった洋介に、海女姫はさらに駄目押しの追撃を加えた。
「この契約書には、洋介様と雪乃様の主従契約について、詳細な記載がございます。すなわち、雪乃様が認めたメイド以外の奉仕を洋介様は断ること。さらに、雪乃様並びに雪乃様が認めたメイドの奉仕を、洋介様は断らないことでございます。以上を持ちまして……」
海女姫は一度言葉を切り、雪乃の方を見て言った。
「裁判長、検察の告発は完全に有効かつ正当であり、被告人はオナニー禁止の刑に服するのと同時に、今後はこの契約書を厳しく遵守すべきであると主張させていただきます」

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