絶海の彼方で 8
「せめて、墓を作ってやろう。埋葬してあげるくらいは俺達にもできそうだしな」
「どうやって?」
「スコップは無いが、壊れた旅行カバンはあった。結構硬いから、砂浜を掘るならバケットの代用になると思う」
ざっ、ざっ……俺は穴を掘り続ける。スコップやシャベルじゃないから、結構きついな。
バケット代用のカバンは役立ったが、腰に来る。
俺は穴掘りをいったん止め。休憩に入った。
すると美月ちゃんが、見慣れない果物を持ってきた。黄色っぽくて、みかんみたいな色合いだが、また違う形だ。
「とりあえず見つけてきたの。食べて」
「お、サンキュな。ところで土左衛門を供養すると、縁起がいいらしいぞ」
「そうなの?」
美月ちゃんは半信半疑で、可愛く小首を曲げている。
「海運業とか港湾関係の仕事の人たちの間では、そう言われていたらしいぜ」
「そうなんだ……知らなかった」
「俺も偶然知っただけだけどな。それにこのみかんみたいなの、甘酸っぱくて結構いけるな」
「でしょ。私も一個食べてみたけど、いけそうだったから持ってきたの」
幸せさともの悲しさが交じり合った時間が流れる。
俺はシートで覆っておいた、白人と思しき男性の遺体にちらっと目をやった。
無残に亡くなられて、こうして横たわっている。
俺達がああなっていたかもしれないし、彼が生き残ってこうして誰かとささやかな幸せな時間を過ごしたのかもしれない。
街では感じられなかった、ゆっくりとした時間が流れる。
「うん、うまいな…甘すぎず酸っぱすぎず、瑞々しくていい」
「そうね。こんな島で二人っきりでも、こうして食べていけるなら、幸せなのかもね」
そのまま美月ちゃんと一緒に、ゆっくり食べていた。
最後の一口の味が妙に名残惜しかったのは、人の死を見た悲しさのせいだろう。
「穴掘りの続きをしないとな」
「手伝えなくてごめんね」
「いいさ、道具も無いし力仕事だし」
バケット代わりのカバンがボロボロになって、ようやく穴掘りを終えた。
美月ちゃんにも手伝ってもらいながらも彼の遺体を穴に横たえる。