海から始まる恋 16
この様子を横目で見ていた詩織さんが立ち止まった。
「彩、乗っ取られてるかも!君、先行ってて」
そう言われても、テンタクルズほか、あんな大きなクラゲまで出てくる世界。一人で歩いて無事に済む気がしない。
「詩織さん、正直、僕、怖いです」
「…そうよね。じゃあ、ちょっと離れて、待ってて」
部員の一人が捕まったことにより、水泳部員は混乱を起こしたようだ。こちらの姿を見るなり駆け寄ってくる。
こんな状況でありながら誰もがテンタクルスの毒で射精寸前になっている。
人が居ればそちらに逃げてくるのは仕方ない事なのだが、正直まずいなと感じていた。
巨大クラゲがこちらに向かってくるかもしれないからだ。
クラゲ中の水泳部員はグルグルと激しくかき回されていた。一応は死んではいないようだ。
詩織さんは彩さんに向かって直立し、手を合わせて何かを口の中で言っているようだった。
そして、それが終わった時、青白い閃光が彩さんに向けて走った。
こちらに向かってきていた部品たちは驚いて足を止める。何人かは尻もちをついている。勃起したまま。
彩さんは倒れた。クラゲが一瞬揺らいだ。
しかし、彩さんは直ちに立ち上がり、こちらを向いて手を詩織さんに向けてかざした。この距離だと彩さんの表情まで見えない。
「キャア!」
跳ね飛ばされる詩織さん。しかし、彩さんと違って、立ち上がらない。
「詩織さん!詩織さん!大丈夫ですか!」
僕は詩織さんに駆け寄る。
詩織さんは仰向けで、目を閉じている。
「詩織さん!」
僕は詩織さんの体を揺さぶった。
「あ、ああ、一馬君…」
「大丈夫ですか!」
「…大丈夫…」
詩織さんは、腕輪を外して、僕に渡した。
「これで…さっきの海の家で…やくそうと、まほうのせいすい、買ってきて」
海の家に走る背後で逃げ遅れた水泳部員がまた一人捕らえられてしまった。捕まった者はあっという間に透き通った本体の内部に入り込んでしまう。
そして、先に閉じ込められていた部員と共に激しく愛撫され始めた。
クチャクチャと卑猥な音が鳴り響き、逃げようとしていたはずの水泳部員達は自らクラゲに向かって歩いていく。
僕は海の家に駆け込んだ。
「いらっしゃいませ!」
「あ、あの」
僕は息を切らしながら言葉を絞り出す。
「あの、えーと、やくそう、と、まほうのせいすい、ください…代金は、これで」
店員は不思議そうな顔をした。
「あの、お客様、失礼ですが、この世界の方ではないとお見受けするのですが、どうなさいましたか?」
僕は呑気そうな店員にちょっとイラッときた。
「あの…できましたら、ちょっと外見ていただけないでしようか」
店には客は一人もおらず、店員は直ちに入口の近くまで来た。