海から始まる恋 14
うろたえる水泳部員達のそれは未だにそそり立っていた。普通なら萎えていてもおかしくはないのだが、それはテンタクルズに何か注入でもされたからなのかもしれない。
彼等の裸体を見ているとまたしても興奮が誘発されてきていた。
どうせこの周囲は切り離された空間なのだから、裸で居たって何も悪いことはないのだ。
思わず僕も自らの海パンに手をかけようとしてしまっていた。詩織さんに何て言われるか、と思ったことが辛うじてその手を止めていた。
そのとき、岩陰から彼らの前に黒のワンピース水着の女性が現れた。彼らの視線が一斉にそちらに動く。
「彩さん!」
もちろんこの距離ではその声は彩さんに届かない。
一緒にいたはずの英人の姿は無かった。
正確に言えば、彩さんは英人を置き去りにして離れていたのだが。
ここが異世界であるというのなら、姿が見えない英人の事が心配になってくる。水泳部員がテンタクルスに襲われた件も頭に引っ掛かっていた。
ここがよく知る世界ならほおっておいても良かった。
だが、ここはよく似た別の場所だ。その事を英人は知らないだけでなく、テンタクルスのような異形も当たり前のように出現するのだ。
何事もなく元の世界に帰れるとはとても思えない。
「詩織さん!」
「何?大きい声で」
そう、ちょっと、大声になってしまっていた。
「あの、英人、探しにいっていい」
詩織さんはふっと真面目な顔になった。
「そうよね。心配なの、わかる…私も手伝うよ…」
詩織さんは飲み物を飲み干した。
「お会計お願いします!」
詩織さんはカウンターにいた唯一の店員…普通の人間に見える…にそう声をかけた。詩織さんは伝票を盛ってきた店員に腕輪をかざし、立ち上がった。
「ありがとうございまーす」
「あれ、あの、お会計…僕、今お金…」
荷物が手元にない。
「いいよ。それに、君たちのお金ここでは使えない」
「え、でも、いつ払ったんですか?」
「この腕輪にゴールドが封じ込められてるの」