牝奴隷たちと御主人ちゃん 38
夫のゲイルは踊り子オルガに惚れていた。
オルガは島の女は誰かの妻にならなければならないという掟に従っただけである。
本当は首領のギルに惚れていた。
首領のギルは、サラに惚れていて、次は自分の船を大事にする男だった。
オルガは船長室で椅子に座り、目を閉じていると船の周囲で魚の群れが泳いでいくのを視ることができ、感覚としては自分が泳いでいる気がした。
オルガのそばで、ポチがオルガの手を握ってにこにこしている。魚の意識をポチは感じ、どうやら会話したりしているらしい。
「とりゃあ!」
「腕がなまったんじゃない、ギル!」
「まだまだ!」
甲板ではサラとギルが木刀で稽古している。
オルガは甲板の二人も視ている。
ギルはサラに惚れているが、サラにはそんな気がないのもだいたい伝わってくる。
海神の神官様、少年の意識は伝わってこない。
深い無音の闇。
逆に見つめられているような気がする。
皇女ティアナの意識は伝わってくる。
太陽の光のようにまばゆい。
この二人の意識や思考は読めなかった。
オルガは死霊祭祀書の存在に気がついた。
人がいないのに、人の意識がある。
(やれやれ、見つかってしまったか)
「誰なの?」
(私は書物だ、君は船なのか?)
「オルガよ。そうね、今は船になってるわ」
(よろしくな。私とはちがって、人でもあり船でもあるなのだな、うらやましいことだ)
操縦士オルガには、搭乗している者や周囲の魚まで帆船ゴーレムが意識を読み取り、また必要があれば相手が船にふれていれば、オルガの意識も声として伝えることもできた。
ポチは、それをすぐに使って魚と話をしている。
「沈没船、みっけ!」
オルガに、にっこりと笑うとポチは全員に走って知らせに行った。自慢したいようだ。
オルガに頼めば船内放送できるのに。
「お魚さんのおうちになってるけど、宝箱とかあるみたいだよ」
ポチは財宝そのものには興味はない。
財宝を商人に売ればお金になって、お金でごちそうが食べられることは知っている。
「ギルっち、行って持ってきてよー」
「さすがにきついな。やってみるか」
「水圧が高いから潜水では無理だよ」
少年は二人に言うと、オルガに船をどこまで近づけられるか聞いた。
財宝と聞いたぐらいでは御主人様が興味を持つわけがない。サラがはしゃいでいるギルとポチを見て、首をかしげる。
「魔歌と聖歌、どちらが勝つか」
「どういうことですか?」
皇女ティアナがダンジョンを襲撃してきた時に、ある海域には、歌で船乗りを惑わす海の魔物がいるという情報を知った。
「その船が沈んでいる海域がそこさ」
少年が微笑している。
サラは緊張する。こんな表情をしているときは、危険なときが多い。
「おいらも聞いたことある。でも、この船は沈んでるから沈められる心配はないな」
「馬鹿ね、破壊されて沈められたかもしれない」
「げっ、まじか。おい、魔法使い、ポチは水中でも戦えるのか?」
「ポチは水中で戦うようにはしてないな」
「ポチは?」
「オルガ、戦いになったら君が頼りだ」
「はい」
皇女ティアナが、死霊祭祀書を抱えて緊張して黙っている間に船は進んでいく。