牝奴隷たちと御主人ちゃん 35
じいやのハザムが、ちびっ子ポチに土下座したのには、島民たちがこの島に移住した時の事情が関係している。
この地図にない島に、海賊の民がどうやって移住したか。
少年とポチは海賊たちの隠れ里である島にある洞窟から財宝を盗み出そうとしていた。
同じ頃、同盟騎士団海兵隊の一隻の軍艦が島に向かっていた。海賊たちが住み着いている島の財宝の噂を聞いて海賊討伐ということにして財宝を奪いに。
海賊の一族が貯めた金銀財宝を海兵隊は狙っていたが、少年はちがっていた。
「本当にあるのかよ」
「ある」
当時、十四歳のギルは洞窟の中を進んでいく。
洞窟には番人のゴーレムがいた。
少年はギルに、ゴーレムのひたいの文字を消せと言って、ゴーレムの動きを魔法の蜘蛛の糸でがんじがらめにして封じた。
ひたいの呪文をギルが全部ナイフで削って消してしまい、ゴーレムは岩に戻らずにもがいている。
「……しかたない、行こう」
「最初の一文字って言わなかったじゃんか」
海神様の洞窟と島では呼ばれるダンジョンには金銀財宝はなく、一枚の石板だけがあった。ギルは落胆したが、少年は微笑して、その石板に刻まれた呪文を詠唱した。
しかし、何も起こらない。
洞窟から出るとポチが島に軍艦が近づいてることに気がついて教えてきた。
「海鳥さんたちが見たって言ってるよ!」
ギルは勇敢だった。
戦艦に小舟で近づいて、救助を求めるふりをして甲板に上がると、割れると大量の煙が出る小石を使い船内を混乱に陥れた。
小石は魔法使いの少年が、洞窟に一緒に行く謝礼でくれたアイテムだった。もともと、ギルは一人で洞窟を探検するつもりだった。
「小僧、海兵隊をなめているのか?」
「うるせぇな」
縛られて転がされたギルが船長の髭づらの男に思いっきり蹴られた。
船が島に近づいて行く。
夕暮れには島に到着するだろう。
「せ、船長、船の甲板に……」
激しい音が船室にも響いている。
あれはマストが折れた音か。
嵐でもないのに。
甲板ではポチがマストに飛び蹴りしていた。
「た、退避しろ!」
船長と海兵隊員たちが小舟で逃げ出す。ドラゴンが飛び去ると、破壊された船が沈んでいく。
小舟で海賊たちの隠れ里がある島に到着した海兵隊員たちは、島に誰もいないことに気がついた。
夜中に船長は一人で海神様の洞窟に向かった。
「なんだこれは?」
入口から蜘蛛の糸のようなものがびっちり張らされていて、ねばつき、うまく進めない。
癇癪を起こした船長は、蜘蛛の糸にタイマツで火を放って焼き払うことにした。
ゴーレムは解放され、侵入者を叩き潰すために洞窟の奥から出ようとしていた。
船長、および海賊の住居を占拠していた海兵隊員は全滅した。
「若様、じいは悲しゅうございます」
戦艦の残骸は流れついたが、ギルの遺体は見つからないので、墓標だけの墓で若き頭領の葬儀が行われていた。島民たちは地図にない島に避難していた。
「勝手に殺すな……みんな無事か?」
疲労困憊して葬儀の場に現れたギルはそれだけ言うとその場で気絶した。
どうにか脱出して、ひたすら泳ぎ続け、運よく島にギルはたどりついた。
海神様の洞窟に残されていた石板。
呪文を詠唱すると海底から島が浮上する。
石造りの街がついている島が。
海賊たちの先祖は子孫に島を残したのだ。
ギルが戦艦で騒いでいる頃、少年は島民を集めて、地図にない島に行かせようと説得していた。
「見よ、海神様の娘が導いてくれる!」
ちびっ子ポチを島民たちの目の前でドラゴンに変身させると、島民たちは平伏した。
ポチは島民の子供を背中に乗せて、地図にない島を目指して飛んだ。
島民たちは小舟でドラゴンの姿を目印に海を渡り、地図にない島に避難した。