牝奴隷たちと御主人ちゃん 34
ポチの飛行速度を落とす。
全員で海を見ている。
船が見つからないから、海で泳いで休憩なんて悠長にしていると鮫に襲われかねない。
また、飲み水の確保が必要だ。
ポチは海水でも。がぶがぶ飲めるが、背中の上の三人はそうもいかない。
マストが三本以上ある大型帆船しか航海していない外海だが、島が周辺にない海域を渡る船は見当たらない。乗員が多ければ補給もそれだけ必要だからだ。
「このまま北西に直進するのが最短距離だけど、しかたないね」
ポチは地図の情報を把握している。
現在位置を指輪をつけた少年に伝えている。
南に進路変更することにしたらしい。
「地図にはこっちにも島はないけど」
サラが地図を見ていると少年が前方を指さす。
「島ですね、街みたいのもあるみたいですよ」
「海賊の島だよ。ポチ着陸」
皇女ティアナに少年が微笑して言った。
「海賊?」
サラが少し不安になる。
ポチは海岸の砂浜に着陸した。
青い空、白い雲、まばゆい太陽。
金色のドラゴンの天使のような純白の翼。
砂浜で海を見つめる修道服の美少女。
(これが海ですか、風が気持ちいいです)
皇女ティアナは海を生まれて初めて近くで見た。
船旅はしたことがない。
「……」
海から上がってきた日焼けした逞しい体つきの青年と皇女ティアナの目が合った。
手に銛を持ち、あとは全裸の青年が歯並びのよい白い歯を見せて、にっと笑う。
「ポチか、それにあれは……おおおおおっ!」
青年が銛を放り出して、サラに抱きつく。
すぐに鈍い音がする。
青年が腹を押さえて後退した。
「いい打撃してやかる、いててて……」
「いきなり抱きつくのが悪い」
腹部を三発ほど強打されて、フルチンの青年が目を細めて笑っている。
「海賊って聞いて嫌な予感がしたわ。
とりあえず服ぐらい着なさいよ。ギル」
少年が砂浜に降りて、ポチが少女の姿になる。
「ギルっち!」
「はははっ、ポチはいつもかわいいな!」
美少女の姿になったばかりで全裸のポチを肩車して、海岸を走るフルチンの青年。
「あの方は?」
「ギル・サルエル。見た通りの男です」
サラがはしゃいでいる二人を見て苦笑する。
海賊だが、船の修理費用のために傭兵をしていた時期があった。
「御主人様、この島は?」
「ギルの小さな王国だよ」
はしゃいでいる二人が少年の前に戻ってきた。
「よっ、あいかわらず青白い顔してるな!」
「ギルは日焼けで真っ黒だね」
「もともとおいらは地黒なんだよ。
ん、そっちのお嬢ちゃんは、彼女か?」
サラがそれを聞いて、思わず叫ぶ。
「この山猿、無礼者め!」
「山猿はひでぇな、そう思うだろお嬢ちゃん」
ポチを乗せたまま、ギルが皇女ティアナに話しかける。
「ギルっち、おさるさん!」
「こいつめ、そういうやつには……」
「ひゃははははっ、くすぐったーい!」
サラを砂浜に仰向けに下ろして、すかさずギルがしゃがんでくすぐる。
それを見ていて、皇女ティアナも思わず、くすくすと笑ってしまう。
海に潜るときは全裸らしい。ギルはポチをまた肩車して、街に全員を案内する。
「若様、また勉学をさぼって、海に……おや?」
砂浜に若様を迎えに行くつもりだったじいやのハザムが、若様の上に乗っているポチに気がついて叫び声を上げて駆け寄ると土下座する。
「ハザム、祭の準備だ!」
「はい、若様!」
ハザムが街の方へ走っていく。