牝奴隷たちと御主人ちゃん 32
「おいしいね!」
ポチが料理を頬ばり、もぐもぐとのみ込むと、うれしそうに言った。
すると、グレゴリーはポチの笑顔を見て、にっこりと笑った。
貧しくても、まだ幼いメアリーと美しく優しい妻と、親切で尊敬できる老人に囲まれて、ひたすら絵を描いていた幸せだった頃のことを、ポチを見て思い出したのだ。
「ホムンクルス。それがメアリーの正体」
食事を終えて、しばらくすると皇女ティアナとポチは客室のベットですやすやと眠ってしまった。
四人は書斎にいた。
天井まである本棚には、各国の古書がびっしりと並べられている。
死霊祭祀書をテーブルに置くと、少年はメアリーを見てから、グレゴリーに言った。
サラは御主人様の少年の隣の席に座っている。
向かいあった席にグレゴリー、そのそばにメアリーがひかえて立っている。
「サラ、君の剣を持ってきた?」
「はい、御主人様」
それを聞いてグレゴリーが驚いてサラの顔を見つめる。サラは微笑して、大剣をテーブルの上に置いた。
ケッセルの女獅子と呼ばれて、他国でも勇猛果敢で名高い一族の貴族令嬢サラが「御主人様」と呼ぶ少年は何者なのか。
それに、死霊祭祀書を所持していることも「ホムンクルス」という言葉が少年から出てくることもグレゴリーは驚いてしまう。
「ここの書物は以前の館の持ち主であった老人から受け継いだものでしょう。この館の主人であった老人は、貴方の妻を使ってホムンクルスの実験を行っていたと考えられる」
「ホムンクルスの実験?」
「そう、その成果を老人は確認できずに死んだ。老人は貴方に実験を引き継いだのでしょう」
グレゴリーの顔色が変わり笑顔が消える。
「僕たちをメアリーに殺させようとすれば、サラが貴方を今すぐ斬る。さらに皇女ティアナは噂ぐらいは聞いたことがあるとは思うが、聖なる祓いの巫女。
メアリーは消滅することになる」
美貌の少年はグレゴリーに言うと微笑する。
ホムンクルス。魔法技術による人造生命体。
「老人と貴方は、妻の肉体をホムンクルスの部品を移植していった。
貴方の妻はサリーヌ・マグダース。
死霊祭祀書に記憶を読まれた貴方には、僕に嘘はつけない」
サリーヌは、ずっと今の若い姿でいたいと、そのためなら何でもすると言った。
この館で暮らしていた老人は魔導師だった。
サリーヌは老人によって十八歳の頃の姿を手に入れた。そして最後の儀式のために娘が十八歳になるまで、準備のために娼婦となった。
ホムンクルスの肉体を維持するために大量の精液を摂取する必要があったからだ。
頭脳だけはホムンクルスのものを移植できずに老化していく。娘のメアリーの頭脳を移植して老人の実験は完成するはずだった。
「それを貴方は知らず、妻が家出したと思っていた。老人は時が来たら館にメアリーが戻るように、仕掛けをしてあった」
心臓がわずかに動いているのに仮死状態になったら、人形を修理するから館に届けてくれと老人はあずけた商人に言っておいた。
誤算はグレゴリーが一年間、妻を生きた人形のままで保管していたこと。しかし、ホムンクルスの肉体は維持されていた。
グレゴリーが生きた人形を抱いていたからだ。
母親の人形が館に戻るまではメアリーが父親としていたのに、父親は毎晩のように人形を抱いている……。
メアリーは人形を破壊しようとした。
「そして本当のメアリーは人形に殺害された」