牝奴隷たちと御主人ちゃん 25
留守中に来た侵入者は抹殺と頼まれている。
「御主人ちゃん」と皇女ティアナが二人で旅をする間に孕ませてしまうのではないかと心配だ。
「皇女様、いつでもどこでも絶対にこの本を持っていて下さいね。寝るときもですよ」
フィルは「御主人ちゃん」が手を出さないように死霊祭祀書にじゃまをさせる気らしい。
死霊祭祀書はただの古書のふりをしていた。
神聖ベルラント王国の王都まで歩いて行けば、およそ半年かかる距離なわけだが、僕は歩いて行く気はない。そこで友達を呼んでみた」
ダンジョンから出た「御主人ちゃん」は廃墟の街の噴水広場跡に行くと空を指さした。
皇女ティアナが空を見上げる。
「ポチ、おでかけするよ」
返事をするように咆哮したドラゴンが伏せの姿勢となると「御主人ちゃん」は鼻先を撫でる。
目を閉じて猫のように喉を鳴らす。
午後の日差しに金色の鱗が反射してまばゆい。
(はわわわっ、金色のドラゴンです。は、初めて見ました、本当にいたんですね)
「君も撫でてごらん」
「 は、はいっ!」
緊張した皇女ティアナがおずおずと鼻先にさわった途端に、ドラゴンがくわっと口を開いた。
巨大な舌でべろっと舐められた。
その場で尻をついて座りこんで、怯えて声も出せない皇女ティアナを笑いながら抱き起こす。
金色のドラゴンのポチの背中に乗ると「御主人ちゃん」が指を鳴らす。
バサッバサッと巨大な羽根、ドラゴンらしくない純白の翼をはためかせてふわりと離陸する。
「ポチの翼は僕が作ってあげたんだ。
ふわふわの羽毛だから、夜はこれに入って寝ればあったかいんだよ」
人が蟻よりも小さく見える上空を飛行しているのに、突風で吹き飛ばされたりしない。会話も聞こえる。
これはポチの背中にある魔法の羽根の効果だ。
天空では方向転換するとき以外は羽根を動かさずに広げて飛行している。
風を操る魔法で、ポチの頭のツノの先から、シッポの先まで暖かい空気の丸い玉に包まれている。
ポチは羽根の羽ばたきで飛行しているのではなく、浮き上がっているのだ。
ポチは飛行している気分を満喫している。
ひゃっほう!
ぐらい人なら叫びそうな感じでこきげんである。
その背中で地図を広げて「御主人ちゃん」は皇女ティアナに途中で立ち寄る場所を説明した。
「それにしてもダンジョンまで馬も使わず、君たちは何でわざわざ歩いてきたの?」
「私が乗馬が苦手なので……」
「エルヴィスか乗馬できるなら、君がうしろに乗せてもらえばよかったんじゃない?」
「兄の馬は途中の宿屋で売られてしまいました」
「売られた?」
「はい、さよならしました」
路銀はどうしたのか。
馬を売るほど金がないまま旅をしていたのか。
皇子エルヴィスの身代金を要求しようと計画していたけれど、皇子と皇女に路銀もわずかで放り出すとなると、あまり期待できない。
「途中、信者の人たちが泊めてくれたり、教会でお仕事するとお給料もらえたりしましたから」
神聖ベルラント王国は同盟諸国に教会を設立していて、婚礼や葬儀などには僧侶が祝福の祈りや冥福の祈りを捧げてくれる。
寄付金としてしっかり金を集めている。
「エルヴィスは僧侶って感じの服装ではないけど、教会で仕事をしてたのかな?」
「兄は僧侶ではないんです」
十五歳まで別の国であずけられて育ったそうで、修行してないらしい。
それは、王の隠し子だったってことか。
そうなると宰相ラーニャでなくても近親者の女性がいるわけで、王都に行く理由がなくなる。
「兄は生まれたときに、十五歳までは名前を隠して、王族てあると教えずに育てるとよいと神託があったそうです」