牝奴隷たちと御主人ちゃん 17
「あの……」
「ん?」
「どうして私は裸でここにいるんでしょう?」
罠にかけて瞬間移動させたから。
とは「御主人ちゃん」は言わない。
にっこりと笑い、皇女から離れる。
「えっと、名前をおしえてほしいな」
質問をはぐらかし、さらに罠にかけようとする。
皇女は腕で豊満な胸を隠して、ベットの上におとなしくすわる。
「私はティアナ・ベルラント。エアル教司祭として旅をしている者です」
「シスターさんなんだね、すごいね」
その頃、死霊祭祀書を抱えたフィルが牢屋に向かって歩いていた。
(今ごろ、御主人ちゃんはシスターとあんなことやこんなことを……ううっ)
(……)
嫉妬しているフィルと、黙り込んでいる死霊祭祀書が牢屋の中に入る。
鎖で縛り上げられてもがいていた青年が、フィルを睨みつける。
狼のような眼光を持つ青年。
顔立ちも凛々しいために迫力はあるが、熊のような体つきではない。筋肉の塊という鍛えられた逞しさではなく、しなやかな体つきをしている。
(おお、騎士ヤザンの若い頃によく似ている。お嬢ちゃん、彼の胸の上に私を置いてくれ!)
フィルは死霊祭祀書に言われて、暴れる青年の体に跨がると、頭を片手で床に押しつけた。
「おとなしくしなよ」
「くっ!」
皇子の表情が屈辱にこわばる。
拘束されていても闘志は失われていない。
フィルが青年の心臓の上に死霊祭祀書をのせる。
青年の目が大きく見開かれた。
「ぐああああぁっ!」
絶叫して、青年の抵抗の力が失われた。
フィルはしばらく押さえつけていた。
(お嬢ちゃん、もう離れていてもいいぞ)
「大丈夫?」
(ああ、しばらくこの青年の意識に集中する)
「わかった」
フィルが青年から離れる。
心配して、壁に背中をあずけ、腕を組んでフィルは青年と死霊祭祀書を見つめている。
牢屋の中は暗いが扉を開けてあるので、通路からの光が入ってる部分が照らされたように見える。
皇子エルヴィスは妹が神官たちの前で全裸になり、しゃがみこんでいるのを見ていた。
「ティアナ!」
(叫んでも誰にも聞こえないさ)
死霊祭祀書がエルヴィスに話しかける。
一列に並んだ十人の老神官たち。
その前でしゃがみ込んでいるのが、妹のティアナとよく似た若い女性だと気がついた。