牝奴隷たちと御主人ちゃん 14
蛇神信仰の神をフィルに融合する。
聖水や聖歌でもそこまで高位の魔物であればダメージを受ける心配はない。
(私にも対策は考えてくれていないのかね?)
死霊祭祀書が情けない声を上げる。
「御主人ちゃん」は死霊祭祀書にも対策を考えていた。しかし、この協議中は教えなかった。
「蛇神を融合って……」
フィルにはよくわからないが、とても嫌な予感がした。死霊祭祀書を抱えてフィルが「御主人ちゃん」の顔を不安げな表情で見つめた。
「これほど近親相姦に執着してきた理由が気になる。教えてくれないか?」
死霊祭祀書は「御主人ちゃん」に、王家の秘密を説明した。エレノア皇女は恋人に王家の秘密を教えていた。
女性しか聖歌を含めて退魔の力を使えない。
近親相姦で産まれた娘が、退魔の力を受け継ぐというのである。
グラウバルトはエレノア皇女が双子の兄と交わる前に関係を結んだ。孕ませていたら、退魔の力を持つ血統が失われるところだった。
不老不死は不可能だが、自分の子の肉体を奪い、生き続けるという秘術を試みた。
死霊祭祀書となって脱獄して、エレノア皇女の手に渡った時には、すでにエレノア皇女は、実の兄の子を孕まされていたのだった。
その胎児が、女帝シーラとなる退魔の力を持つ娘だったので秘術に失敗した。
退魔の力を持たない息子だったなら、グラウバルトは転生していたはずである。
(おぞましい孕ませるための儀式の様子や方法を、私はエレノア皇女として疑似体験した。
ああ、エレノア皇女もその娘のシーラも、老いてこの世を去ったが、それから三百年後の今でも、あの儀式が行われているのだろうか……)
「三百年もの間、古書として虫にも喰われず、破けたりもせずに現存しているあなたもしぶとい。
今は、再び人として生きたいと思ってますか?」
「御主人ちゃん」は死霊祭祀書に質問した。
すると、死霊祭祀書は笑いだした。
(持ち主しだいだがね。
書物として暮らすのも悪くはない)
フィルが死霊祭祀書を見つめて言った。
「御主人ちゃん……」
「わかった。あとで儀式について話してくれるなら見捨てたりはしない」
(おお、いいとも。ただ試そうとはしないことだ。今まで王家の秘密を再現しようとした連中は、悲惨な末路をむかえたからな)
スケルトンのゴーレム化の作業が終わった。
死霊祭祀書から骨ゴーレムを作るために意見をもらって、フィルも作業を手伝った。
骨ゴーレムは壊れると、骨を拾って自分で修理する。スケルトンは壊れっぱなして、カタカタとあごを動かして鳴らしながら歩いていたが、ゴーレムの方が身だしなみに気を使うようだ。
粘土製ゴーレムは自分で土を補充して、放置しておくと巨大化してしまうが、骨ゴーレムはそこまではやらないので安心だ。
腕が四本とかの骨ゴーレムは作るとかわいそうなことになってしまう。他の二本腕の骨ゴーレムと同じにしようと壁に多い本数分の腕をぶつけて、骨折して二本腕になろうとする。
死霊祭祀書の提案でダンジョン内に修理工としての骨ゴーレムが駐在する部屋を作ってみた。
工作室である。
すると、骨ゴーレムたちは骨を拾うと修理工ゴーレムに持っていき、修理や改造をしていた。
戦闘で頭蓋骨の一部が破損した骨ゴーレムが侵入者を殴り殺したあと、肩を落として、何度も破損して欠けた骨の穴を撫で、とぼとぼと修理工の部屋に行く姿はかわいそうだった。
後日、フィルが殴り殺した犠牲者の頭蓋骨と交換してやると、元気に巡回していた。