快感メーター 18
「ドラマや映画で見る瑞穂は、所詮脚本のキャラクターを演じているわけだし、今日は憧れの国崎瑞穂を初めて見れるって楽しみにしてた」
ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ瑞穂の手を握る手に力を入れる。
そしてちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、俺の触れている瑞穂の手の感度をアップ。
「…がっかりしたでしょ」
「別に」
「はいはい、もう飽き飽きしてるのよ。皆に愛される国民的子役やらヒロインやら、勝手に憧れて、勝手に失望されるのはね」
ん、本音ってわけじゃないな、これ。
「はは、雪女みたいだな」
「は?」
よし、意表をつけた。
「いや、勝手に惚れて、勝手に出ていくだろ雪女って」
瑞穂はちょっと瞬きした。
「……そう、ね」
「しかも、子供までほったらかしだよ。ベスト3には入るよ、あの自分勝手さ」
「ベストじゃなくて、ワーストじゃないかしら?」
はい、初めての微笑みいただきました。
心を開いたなんて甘いことは考えないけど。
甘いことは考えないけど、気のせいかってぐらいの強弱をつけて、瑞穂の手を握り、さする。
同時に、快感の手前……ぽっと暖かく感じるぐらいのレベルの感度を微妙に上げ下げ。
ちらり、ちらり、と俺に握られている手に、瑞穂の視線が向けられる。
今はこれが精一杯というか、じわじわ行きます。
やる気ですから。
瑞穂を俺のモノにするって、やる気十分ですから。
本気と書いてマジですから。
「まあ、俺は雪女ではないつもり」
「口では何とでも言えるわね」
「いやだって、男だもん」
ほら、と愚息をブラブラさせてみる。
「…ッ、き、汚いものぶら下げて言うことじゃないでしょ」
「確かに」
生真面目な表情でうんうんと頷いてみせると、はぁ、と瑞穂にため息をつかれた。
うん、怒ると頭に血が昇って熱くなる……それが不自然じゃない程度に、感度アップ。
そして俺は今も、瑞穂の手に愛撫を続けているつもり。
それにしても、瑞穂は手ごわい。
計算と演技による反応しか見えてこないというか。
そもそも、俺のことを『権力者の息子か何か』で『大金を積んで国崎瑞穂を要求した』男だと思っていたら、こんなふうに、よく言えばフランクな、悪く言えば無礼な態度やら言葉遣いなんかできるはずがない。
彼女が言うように、社長やらお世話になってる人に言われて嫌々やってきたとしたら、嫌なことを強制させられる相手の面子を潰すことなんか、芸能人としては普通できないよね。
そう考えると、今までの会話というか、やりとりなんて、単なるお遊びとしか思えない。
もしかしたら、ある種の知的なゲームとして楽しんでる素顔を隠しているかもしれないわけだ。
まあ、いいけどね。
それはお互い様というか、俺は俺でやりたいことをやるつもりだから。
瑞穂の視線が俺を見る、俺からそれる。
俺の動きに反応する。
それに合わせて、俺は俺で色々やってる。
どうかな、俺を見るたびに微かに顔を赤らめている自分に気づいているかな?
俺の手が与えるぬくもりと、ちょっとした心地よさをどう思っているのかな?
まだまだ勝負は始まったばかりだよね。
瑞穂との会話が弾んできた。
俺の言葉に対する彼女の反応が、それまでとは変わらないようでいて何かが違う。
『仏作って魂入れず』という言葉があるけど、その仕草に、口調に、計算や演技以外の何かを感じるようになってきた。
それが、俺には楽しい。
俺が楽しんでいることが伝わるのか、瑞穂もそれを楽しんでいる。
少しずつ、少しずつ、国崎瑞穂が見えてくる。
おそらくはそんな自分に気づいて、取り繕うとして破綻を招いている……その程度に、ちぐはぐした部分が散見できるようになった。
俺の手は、瑞穂の指に絡めるような握り方に変化し、指そのものを愛撫するように細かい刺激を繰り返す。
快感メーターを使わずとも、瑞穂の目元はかすかに赤らんだまま醒める気配もない。
ふっと、瑞穂の視線が動くのに合わせてちょっとした爆弾を投下する。
「…ぁ…ン」
瑞穂の下半身が微かに震えた。
俺の股間のモノ(ずっとおっぽりだしたままだ)を見た瞬間、疼かせてやったのだ。
言っておくけど、今の俺は全身全霊をかけて瑞穂を感じ取ろうとしているんだからな。
目の前のひとりの女のあらゆる機微をとらえるため、めちゃくちゃ集中してる。
そう言ってる間に、また瑞穂の視線が…。
ぴくん。
……捕えた。
瑞穂がぽうっとして、俺のモノから視線を外さない。
「…ッ」
ゆっくりと、勃ち上がっていくマイサン。
そうだよ瑞穂、俺も、興奮してる。
瑞穂の指に絡んだ俺の手を、ゆっくりと動かす。
性行為を連想させる、抜き差し。
指から伝わる快感と股間の疼きが連動し、胸、乳首、首筋、太もも、と広がっていく。
瑞穂の半開きの唇から、疑問の言葉がこぼれた。
「…なん、で…」