快感メーター 17
「えっと、まずは会話でも…」
マネージャの言葉を叩きのめすかのように、瑞穂が吐き捨てるように言った。
「時間がもったいないわ、するならさっさと済ませて」
「別に、俺もいつもどおりのことをいつもどおりにやるつもりですから」
俺の言葉にマネージャーはちょっと頭を下げ、裕子とみどりさんを連れて出て行った。
そして残された、俺と瑞穂の二人。
「……チッ」
皆に愛される国民的な女優の舌打ちからの、心底蔑むような視線をいただきました。
ソファに腰掛け、足を組む仕草は高飛車そのもの。
「マネージャーはともかく、事務所の社長やお世話になってる人が口を揃えて……」
キッと俺を睨みつけながら。
「一体なんなの、あなた?」
まあ、その気持ちはよくわかるんだけど……事務所の社長?お世話になってる人って誰?
俺、なんかしたっていうか、面識あったっけ?
まあ、そこらの疑問は今はさておいて会話を続けようか。
「どこにでもいる学生のはずなんだけど?」
「はぁ?」
ふむ、これが瑞穂の素なのかな、それともこれも演技か?
ビッグネームじゃなくても、それなりに芸能人の女性は相手してきたからね……能力の高下はあっても、それなりのパターンというか、傾向ぐらいはなんとなく掴んでる。
「どうせ、親が権力者ってとこでしょ……金を積んで、『是非とも、あの国崎瑞穂とヤりたい』ってとこかしら」
「国崎瑞穂とヤりたいってところは、間違いでもないですよ」
「はんっ、男って馬鹿ね……セックスなんて、穴に棒突っ込んで、腰動かして終わりでしょ」
うわあ…。
「言っておくわ。期待するのは勝手だけど、失望するのも自分だけで完結しなさいよ」
うん、ろくなセックスを経験してないことだけはわかった。
「……ち、ちょっと、いきなり何を…」
ズボンを脱いで愚息を取り出した俺を見て、瑞穂が慌てる。
「いや、あんまり男に慣れてなさそうだったので、軽く挨拶を」
手に持ったそれを、上から下へ。
まだ勃ってないぞ。
瑞穂の表情に困惑が浮かんだが、それも一瞬。
「自慢の性器ってこと?バカじゃないの?大きければ女は痛いだけよ」
「へ?普通ですよ、これ?」
うん?なぜか瑞穂が浮かべた表情が、時折俺に対してみせる裕子たちのそれに重なった。
いや、だって、理佐も洋子も特にリアクションなかったし、裕子や麗だって…ねえ。
普通だよな?
そもそも、ほかの男の持ち物をまじまじと観察する機会なんてないし。
しかし、男に対する嫌悪感が見え隠れしてるというか。
俺みたいな普通の学生じゃなくて、カウンセリングの先生を呼んだほうがいいような…。
いや、俺のような普通の学生だから、なのか?
芸能人にとって、俺ら一般人の『普通』ってのはある意味新鮮な存在なのか。
魑魅魍魎蠢く芸能界の住人にとって、俺のような普通の人間と接することが、ある種の浄化作用をもたらすかもしれないなぁ。
結局、いろいろ考えても俺はいつもどおりにしかできないし、いつもどおりのことをやるしかないんだけどな。
「そんなおっきくさせたもの見せびらかして、さっさとヤりたいってこと?」
いや、勃ってませんってば。
「……」
あれ、なんだろ……瑞穂の顔色が。
そういや、『大きければ痛いだけ』とか言ってたな。
つまり、過去にそういう経験があったってことだ。
うわあ男に対する嫌悪感に加えて、恐怖心まであるってことじゃねえか。
こりゃ、初心な処女を相手にするぐらいの心構えじゃないと。
「大丈夫だよ、瑞穂」
「はぁ?呼び捨てにされるのは不愉快よ」
再度、呼びかける。
「大丈夫だよ、瑞穂」
ゆっくりと手を伸ばし、優しく手に触れる。
「な、なによ…」
「子供の頃、『少女時代』って映画を見た」
戸惑う瑞穂の目を見つめて。
「あの時から、俺は瑞穂のファンになった」
瑞穂は俺の視線から逃げるように目を背けた。
「……よく、言われるわ」
あれ、この人チョロインの気配がする…。
「子供だったからね、さほど小遣いがあるわけでもなし……それでもまあ、色々と収集して、ひとつひとつにドキドキワクワクしたんだ」
「……良かったわね。今日はついに本物の国崎瑞穂をあなたの自由にできるんだから」
うん、それは全く否定しない。
言わないけどね。