性先進国 10
しばらくすると、さっきの女がビデオカメラを持って戻ってきた。
「我々の犯行声明とともに、人質の動画を、世界的動画サイトにアップする!」
その女が撮影を始めると、座っていたリズは、ぱっと、脚を開いた。
「これで、世界的動画サイトの基準では、アップできないでしょ!」
その女は、唇をかみしめた
「うっ…後で、こちらでモザイク処理する」
「じゃあなんで、私たちを裸にしたの」
その女は、さらにうろたえた。
「それは……簡単に逃げられないように、とか…」
「裸なら逃げられないと思うの?」
「あ、あなた、本当に恥ずかしく、ないの…」
リズは、テロリストの前でも、堂々としているように、一朗には見えた。
「ええ!学校に上がった頃には、もうシタルネン時代だったからね」
「あたしは…恥ずかしかった…胸が膨らみ始めたころに、あのクーデターが起こって…性解放の教育。両親もそれに反対だった。あたしは、そんな教育の学校から離れて…あとで私立学校になる、ヤランネン議長が設立した塾に、行った」
「ヤランネン議長、って?」
一朗は小声でリズに尋ねた。
「義勇軍のリーダーとされる人」
一朗は“確かに、この国の学校ではどんな教育が行われているのだろう?”と、このような場に不謹慎ながら一瞬思った。
「そのあなたの母校は、今あるの?」
「…無い、政府の圧力で、統廃合された…」
「行く人が少なくなったから、統廃合したんじゃないの?」
「…政府の圧力で、行く人が少なくなった!」
「それは見解の相違ね」
テロリストの女は、さらにイライラしたように、言った。
「…とにかく!あんたがたは、人質だから!そのつもりで!」
その女は、ビデオを撮った後、立ち去ろうとした。
「待って」
リズが声をかけた。
「何?」
「今何時?」
その女は、時計を見た。
「真夜中近くだ」
「じゃあ、毛布貸してくれない?どうせ、今晩中には、解放されないんでしょ」
「…いいだろう」
その後、毛布4枚が、届いた。
確かに、二人とも、かなり疲れていた。そして、夕方までは裸でもまったく平気な気候だったが、夜中になるとさすがに冷えてきている。
一朗も、リズも、コンクリートの床に毛布を敷いて、もう一枚を掛けた。
「ねえ、一朗、来て…暖めて…」
リズは言った。一朗は、無言で、敷いた毛布をリズの方に寄せて、掛けている毛布ごとリズの方に行った。
「大丈夫…きっと、大丈夫…」
リズは、震えるような声で、そう繰り返した。
「あ…ああ、きっと、大丈夫だよ」
この状況では、一朗は、勃っていなかった。リズも、濡れるようなことはなかった。
ただ、一朗にできることは、リズを抱きしめることだけだった。
二人は、抱き合って、眠れない夜を過ごした。
そして東の空が白み始める頃、ようやく眠りに就いたのであった…。
………
……
…
「起きやがれ!!この細目野郎!!」
ガスッ!!!!
「ぐ…っ!!?」
突如、一郎は腹部への衝撃と激痛で目覚めさせられた。
腹を思いっきり蹴られたようだ。
「ゲホッ…ゲッ…な…何をするんだ…っ!?」
咳き込みながら見上げるとセクロス人と思しき長身で大柄な男が立っており、憎悪に満ちた表情で一郎を睨み付けながら見下ろしていた。
「俺はセクロス民族義勇軍No.2のマスカークだ!ジャップ!貴様は“フジワラ観光”という会社の社員だな!?」
「そ…そうだ…」
一郎は正直に言った。
おそらく服を調べられ、ポケットの中にあった名刺を見られたのだろう。