性先進国 17
彼は、今になって親の行動が少し理解できるような気がしていた。
(これは彼にとっては聞いた話だが)親は、自分を生んで産休から復帰したばかりのころに、生徒会長選挙でヤランネンの息がかかった候補を破って、いろいろな規制案が実行されるのを阻止した。
そして、在学中から、そして卒業してからも、保育園のボランティアに連日出かけた、など、シタルネンの政策に積極的に協力していた。
小さいころの彼は、そうして外にばかり出て、自分の相手をしてくれない親に反発した。
だから、首都の日系企業に行く話が出た時には「寮に住む」って言って、親から離れた。
当たり前と思っていたことも、そういう身近な積み重ねで、成り立っていたのかもしれない…と彼は思いはじめていた。
それでも、いまさら親に頼れない。メールには「大丈夫」と返している。
週末に、バスに一時間くらい乗って郡を出るのは、楽しみだった。
まだ同じ学校の他のクラスにいる、セクロス人の元クラスメートの女子と示し合わせて、バラバラにバスに乗って、そして、イテスデンに入ったあたりにある公衆浴場で、一週間分セックスするのだ。
(セクロスの公衆浴場には男女別は無い。今回、トゥルクィ郡内では、もと男女別があったところは男女別が復活し、そうでないところは、日や時間で男女を分けるようになった)
選挙後の校則には違反するが、郡の外なので郡条例には違反しないため、ばれなければよかった。
彼は、それを楽しみにしながら、あの時の動画をスマホでこっそり見ていた。
メイファ…
ニーナ…
彼はズボンを脱ぎ、ティッシュを用意した。
自慰行為は禁止されていない。あの日の前にはほとんどやったことは無かったが、今は、なんとか感覚でやり方を覚えて、毎日のようにやっている。
「アレクセン君!それは何だ!」
後ろから、監督生の先輩が急速に近づいてきた。
「あ、これは、プライベートな動画です」
「校則で、見ていい動画か!」
貴重な動画は、消されてしまった。
そして、彼は、当分の間、学校敷地内に謹慎になってしまった。
トゥルクィ郡の各学校には民族党から“指導員”と称する党員が2、3名配属されている。
ヤランネン主義による教育を現場で確実に実施させるためである。
彼らの下で手先のように動き回るのが“監督生”と呼ばれる生徒達で、これは特に党に忠実であると見込まれた“健全なる生徒”の中から選ばれる。
彼らの主な任務は生徒達の“監視”と違反行為の“摘発”である。
指導員達はアレクセンについて話し合っていた。
「あのアレクセンという生徒を民族党少年団の“矯正キャンプ”に参加させてはどうだろう?」
「しかし彼は違法動画を所持していただけだ。キャンプに参加させる程の問題児ではない」
「彼の母親を調べた。シタルネン主義者だった」
「なんと…血は争えんか…よし!矯正キャンプ1ヶ月コースだ!」
こうしてアレクセンは民族党少年団の行う“矯正キャンプ”なる物に参加させられる事が決まった。
民族党少年団は民族党青年団と並ぶ民族党の下部組織である。
団員は“健全なるセクロス青少年の模範”であり、将来の民族党員の卵だ。
先に挙げた監督生達は全員これに所属している…つまり、そういうヤツラの集団である。
彼は、クラスメートや元クラスメートの女子に別れを告げる暇もなく、矯正キャンプに行くための車に乗せられた。
そして、この郡は全体的に山の方なのだがその中でもさらに山奥に着いた。
スマホは取り上げられなかったが、持っていても圏外になる。
ここには、矯正対象者、スタッフ含め、当然男しかいなかった。