性先進国 12
アジトは武装警官隊に制圧された。
彼らはその一室で裸で抱き合って震えていた一郎とリズを発見した。
「人質を確保しましたぁ!!」
「君達、恐ろしい目に遭ったな。もう大丈夫だ。心配は要らない」
「あ…ありがとうございます…」
一郎には隊員達の姿が神に見えた。
というか彼らは一郎とリズが人質に取られているという事実をあまり考慮せずにテロリスト達と本気の銃撃戦を繰り広げていたが、まあ無事だったのだ。
結果オーライだ。
一方、リズは一郎の腕の中で…
「うあぁぁぁ…っ!!」
緊張の糸が切れた彼女は幼い少女のように泣きじゃくっていた。
何はともあれ、二人は助かった。
一朗とリズは、病院に収容された。
警察から簡単な事情聴取を受けた後、セクロス国営メディアのインタビューもあった。
一朗は
“セクロス政府の迅速な対応に心から感謝します”
という趣旨のことを言った。
一朗は本心からそう思っていた。
二人とも怪我はなく、入院することもなくすぐ帰ることができた。
服や財布などの持ち物は、一つも欠けることなく二人に返された。
帰ってからテレビのニュースで見たところ、見えていないところで起こったことはこんな感じだったという。
サポーター連からの釈放要求を受け取った政府は“逮捕した仲間の一部に会わせる”と申し出た。
それを受けて、サポーター連の一人が、政府指定の場所に行った。
逮捕されたかつての仲間は、彼にこのようなことを言った。
“刑務所に入って、いろんな女と、一日最低三回のセックス!こんなに気持ちいなんて。サポーター時代の禁欲は何だったんだろう?もう、シタルネン万歳だ”
それを聞いた彼は、政府側に投降して、そして知っているアジトの位置を教えたのだ。
「ここ10年、同志奪還テロなんて、なかった。多分、義勇軍の上層部は、捕まったらこうなることは、分かっていたから、敢えて奪還とか考えなかった、と思う。多分、サポーター連のどこかのチームリーダーが、功を焦ったのか、判断ミスをしたんだと思う」
リズはそう言った。
怖い思いをした二人は、お互い、帰って一人になるのが不安だったので、リズも一朗の部屋に来ていた。
そのうちに、一朗のスマホに着信が入った。
フジワラ観光の日本支社から“解決したテロ事件”についての問い合わせだった。
一朗がおどろいたことには、一朗が人質になっていた話はまるで伝わっていないようだった。
“セクロスで、外国人排斥を掲げる反政府組織が外国人一人を含む二人を人質に取ったがすぐに解決した”
日本ではこのような簡単な報道しかなされなかったようだ。
これは、セクロス側が情報統制しているわけではない。あまりにも性的に常識の違うセクロスのことは、日本のマスコミでは報道を自主規制する傾向があった(そのため、ここに赴任する前には一朗はセクロス、という国名自体をほとんど聞いたことがなかった)
その報道の少なさが幸いして、旅行のキャンセルが発生するようなことはなかった、と日本支社の担当は一朗に言った。
一朗は、その担当に“こちらも、まったく平穏で、ツアーに問題は一切ない”と答えた。
「会社からの電話?」
リズが聞いた。
リズは、いつの間にか一朗の隣、すぐ近くに来ていた。
「ああ、日本支社からの」
「あんな事件で、影響ないといいね」
「ああ…今は、大丈夫そう」
リズと一朗は、自然にキスしていた。
「ねぇ…怖かった…生きてて、こうやって、感じられるって、よかった…」
「ああ、僕も…」
彼らは、カーペットの上に倒れこんだ。
「ところで…リズは結構義勇軍に詳しいんだね」
キスを続けながらも、一朗は、雰囲気に流されるのを律したいかのように他の会話を続けた。
「私、東部出身なの。義勇軍が比較的強い…その中でも、ヤランネンの本拠地とされる郡で、育ったんだよ」