美少女戦士 ピュアハート 29
「もはや紅水は地下10メートルまで染み渡った…そろそろ限界だろう、さあ、諦めろピュアハート!」
次々に建物の残骸が飲み込まれていく中で、ふと水鬼は違和感を感じていた。
地面に空洞ができている…これは地下の陥没か、それとも枯れ井戸か何かの跡か。
「まさか、横穴でまだ逃げるつもりか!?」
…策士策に溺れる、とはまさにこの事だろう。
「誰がっ!降参するかぁぁぁっ‼うおおおおおおおっ!」
瞬間、響いた声に反応するがごとく水鬼の前には阿修羅のごとき形相を浮かべたピュアハートがミサイルのように突撃してきた。
ブーツからは炎の力をいかした、爆発によるジェット噴射のような勢いで火を吹いた跡が見え、さらに手にはピュアソウルの使い魔が巻き付き、水鬼の苦手とする土気をまとったまま、強烈なロケットパンチが水鬼の腹部を一撃で貫いた。
「ぐあぁぁぁっ!!このっ…くらえっ…我がっ…水の…ちから…を…」
口だけは何とか動く、水鬼の声はそう呟くも窮極奥義はそれこそ生命を縮めるような技だ、爆音が響き渡るようなピュアハートの強烈な拳の前に声はかきけされ、振り絞るような力でピュアハートを撃ち抜こうとしていた水の矢は蒸発し、そのままぼろぼろと水鬼の肉体は崩れ落ちた。
「無駄だよ?アンタもう死んでるから」
そしてピュアハートはそちらを見ることもなく風鬼に語りかけた。
無論風鬼もピュアハートへ反撃をするつもりだったのだろうが、紅水の浸食を防ぐためにかき集め、ピュアソウルが固く圧縮した強烈な土の円錐形の二人ぶんの「盾」は溶けきることもなく、風鬼を穿ち抜いていた。
「こういう攻撃なら…アンタも効かないんじゃないのかな?」
風鬼も話す余裕はなかった、もはや腹部を穿ち抜かれた時点で術を使うことすら困難なのは明白だろう。
水鬼と同様に肉体は崩れ去り、後には何 も残らなかったが、最後の一人である火鬼が使い魔を連れて逃げた事に対しては猶予はあまり残されていない…二人はそう感じ、そして弥生はけた違いの強さを見せ始めるピュアハートに対して恐ろしさを…そしてどこか同情心を感じていた。
(この短期間で凄まじい強さね…でも、このまま心が持てばいいのだけど…あの子みたいに壊れてしまったら、また水の泡だわ…)
弥生は恐怖心はあってもあくまで先輩としてハート、真純の心を心配していた。
そしてその姿のなかにかつて戦っていた仲間…ピュアリーフの面影を見ていたのは言うまでもない。
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一方、何も知らない…いや、むしろ仲間の犠牲の全てを悟るようにしながらも、火鬼は今や魔術により「土鬼」に臨時で改造されたピュアソウルの使い魔…それもピュアソウルの産んだ子供同様のそれ…いまや真っ黒になった肉体が蛇ではなくグロテスクな深海魚を思わせる、堅い甲皮の上で座禅を組んでいた火鬼は立ち上がり、そのまま目指す場所…町の郊外にある公衆便所に向かっていた。
魔法少女とかいる世界に似つかわしくない、それこそエロゲーのような薄暗い郊外の路地裏にあるその場所…通称ゴミ捨て場は、いつでも現れる「ヤリマン便器娘」の噂が立っていた、なんでもタダでセックスをさせてくれる上に…搾り取るような極上の快楽に飲み込まれてしまう、ともっぱらの噂で、労働者やホームレス達にはこのトイレは人気のスポットになっていた。
ただでさえこの辺の住民は柄が悪い連中が多いし、それに絶望がたまりやすい人間はダウナーの格好の餌食になり、エネルギーをダウナーの怪人体からさらに奪われてしまえば、残りカスとなった肉体はダウナーへ奪われてしまう。
そういう点ではこの町の住人…多くの流れ者や日雇い労働者、不法滞在者などは、質こそ悪い絶望しか持ち合わせてはいないが、それでもゲーニンを量産するさいには役に立つ「駒」として使われていた、それほどいなくなっても騒ぎにならないし、巨大化するほどパワーのあるダウナーが産まれない上…何より誰も誰かがいなくなろうが死のうが、当たり前のことには誰も気にも止めないため 、この場所は「ゲーニンの養殖所」扱いされており、そして…その便器もまた、ダウナーを狙いその町に潜んでいた。