中出し帝国 40
しかし、そこでエルフの民の前に出たのがリズレアだった。
リズレアは憤怒に燃える民を制し、ファウストの騎士団に譲歩した。
ファウストの騎士団の要求を飲む代わりに、集落を、民を見逃してくれるようにと……
エルフの民達はざわめき、困惑した。皆、口々に反対の意を示す。
エルフの民は、虐げられてきた怒りを外敵にぶつける事しか頭になかったのだ。
それでもリズレアは、1人頑として民の怒りを抑えた。
ファウストの騎士団と言っても、一団を打ち負かす事などエルフの民がその気になれば容易い。
しかし、戦いとなれば必ず敵にも味方にも血が流れる。
例え一団を退けても、それはやがてさらなる戦火の種火を生む事になるだろう。
リズレアは、同胞を血で汚れた戦いになど投じたくはなかった。
ただ、民に、子供達には、笑顔で居て欲しい。平和に暮らして欲しい。
それらを守る為に、自らの身体を差し出せと要求されても……
それで民の笑顔を救えるならと、リズレアは喜んでその身を差し出したという。
「民を守れるのなら、私など死んでも構わない。
ただ、皆の、子供達の笑顔を守りたいだけなのです」
リズレアは俯いていた顔を上げ、どこか遠くを見つめるような表情を見せた。
その横顔は、女性のルルでもハッとする程美しく、凛として、しかし儚げだった。
民を想う、長の顔。そのリズレアの表情は、しっかりとルルの脳裏に焼き付いた。
「私がどんな目に遭っていても、皆が笑顔で暮らせているなら、私はそれで良い。
私は自分の選択に後悔はありません」
リズレアは、再び振り向いてルルを見つめた。
真っ直ぐな視線でルルの瞳を射ながら、リズレアはルルに問うた。
「貴女なら、どんな選択をしますか?」
湯に浸かると、ルルは俯きながら語る。
「…私一人が犠牲になればみんなを救えるなら、貴女と同じように身を差し出すでしょうね。」
リズレアは眉をぴくっと動かしたが、ルルは構いもせず悲しげに続ける。
「…でもね、この気持ちは貴女よりずっと汚れてるの。先代の王を始め、お父様も続かせてるこんな法律、さっさと止めさせてあげれば良いのに、それが出来なかった自分が情けなくてね。…多分私、ほとんどの民から嫌われてるんじゃないかと思うの。だから…」
「だから…いなくなっても良い…そう嘆くのですか。」
リズレアは目を細め、ただ冷たく言い放った。
「…………。」
下を向き、何も言い返せずに湯の波紋をじっと眺めていた。
「…そうですか。王族である貴女が諦めていたら、国はどうなるのでしょう?このまま衰退の道へ歩んで行かれるおつもりですか。」
「……………。」