女学園の王子様 12
彼女の願いを漸く叶える事が出来る環境を整えるのにどれだけ苦労したか……。
「所で気になる子とかいないのかい?」
「……」
無口になる辺りは如何に小学校が彼女にとって厭だったのか分かる。恋バナ模した事もないのだろう、そして身を捧げた相手も言わなかった辺りは余程気にしている。ウォークインクローゼットに入るとズラッと並ぶ私服、小柄だったらしく母が残した私服は手直しすれば着用出来る程であった。
学園に戻りふと思う……自分は両親の名前しか知らなかった、否知る事が怖かった。
「歩様、入学式当日にまた」
「父の愛車の面倒をよろしくお願いします」
「はい」
男装執事は軽く頭を下げた。
ライナが去り二人は学園寮に向かう……入寮した子の荷物がロビーに置かれており、たいていはスーツケース数個の程度だ。初等部は基本は自宅からの通学であるが両親が海外に居る子とかは寮生活をしている……ユカは数少ない初等部からの寮生活している。
「あらら、随分と買い物したわね」
寮母である品が良い女性は歩の荷物を見て驚いたように言う。
「母の実家によりまして……」
「そうだったわね、色々と驚いたでしょ……本当は両親が教えるのに……」
彼女もあの災禍を知る一人で夫も子も家も実家を失った被害者の一人だ。幸い会社そのものはあの占い師からの難を逃れるも社会的責任を執る形で経営を社員からの叩き上げのベテランらに譲り、自分は学び舎の学生寮に住み込みで働く事になり、この春で十年が経過した。当然歩の両親を知っており、歩の乳児時代を知る一人だ。
「後は社交界の礼儀作法とか教えておかないと」
「はい?」
まるで少女漫画の様な展開に歩は唖然となった。
数時間後、歩は学生寮の自分の机に伏せていた。社交辞令のイロハなんて縁遠いモノと思っていただけに理解するにも苦労した。
「はぁ……」
ユカが言うにはこの学園じゃ初等部高学年には最低限知っているモノばかりで編入した彼女も当初は苦労したと言う。最も彼女は欧州の社交界を知っていたから苦労したのは茶道を初めとする日本伝統のモノと言う事になる。
「(あ〜キャラバンの方も気になるけど)」
あの子達は上手にやっていけるのか不安になる。
キャラバンは新たな体制でスタートしていた。園長先生はこれまでは後任が居ないと称して頑張っていたが歳には勝てずに引退する事になり……一組の夫婦が任される事になる、子供が出来ない事に嫌悪感を感じていたが勤め先の出資先である櫟財閥当主からの要請を受けたのである。
「余程デキが良いお姉さんだったわけね」
「性教育までは手が届かなかったか」
夫である棚賭 元は妻である朱実の呆れ顔を見る。残した歩のノートやルーズリーフに記載された内容が受験生もびっくりの量だ。そりゃあ全国模試でTOP20の常連にもなりうるし、妻の母校が入学試験無と言う破格の条件を出すにも頷ける。
「歩おねーちゃん大丈夫かな?」
八歳の武藤 沙菜は言うと朱実は屈んで言う。
「うん、私が同じ年齢だった時よりデキが良いから、沙菜ちゃんも頑張れば出来るよ」
「ほんと!」
「御願があるけど、お兄ちゃん達呼んできて」
沙菜は居場所を知っているのか頷いた。
キャラバンの一室に二人の少年が来た、既に夕食を終えており今は少女組が入浴中だ。
「二人ともコレはまだ早すぎるわね」
朱実が手にしたそれはリサイクルステーションに置かれたエロマンガであったのだ。
「……そりゃあ歩おねーさんの裸を見て扱いていたんでしょ?」
「「!!!!」」
少年二人はバレたと言う表情を見せた辺りは“カマをかけて大当たり”……朱実は言う。
「今は一人の女性と見てほしいのよ……」
着用していた衣類を脱ぐと下着に不自然な盛り上がりに視線が釘付けになる、歩と同じ感じに二人はハッとする。
「私ね両性具有なのよ、だけど卵巣を盗まれたの……異母妹に移植する為にね。だから赤ちゃんは出来ない……私の親類らは当初は財産持ちのエロ爺の後妻に据えるつもりがそいつが死んでね……」
この事実を知った朱実は塞ぎこんだがある男性が手を差し伸べ、彼女の親類とは縁を切ったのである……この事実が明るみに出れば大企業の一つ二つの買収劇が動くほどであって親類も煮え湯を飲まされた感もあるが頷くしかなかった。