ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 717
あんなに生意気なことを言っていたくせに、啓くんの瞳が赤く充血してくる。
やっぱり強がっていただけだったんだと、少し心が痛んだ…
「親父も啓くんのこと心配していたさ。また一緒に風呂に入りたいって…」
「そうよ。もうすぐ匠兄ぃもいなくなっちゃうんだし、これで啓くんも来なくなっちゃうと、あの家も淋しくなっちゃうは…」
そうだよな…梓も僕もあの家から出ていくってことになるんだよな…
「お兄さんもですか?」
「ああ、香澄が無事子供を産んでくれたし、落ち着いたら青山家で暮らそうって前から話していたんだ」
「ちょっと寂しいなぁって思うよ…香澄ちゃんのお父さんも寂しかっただろうけど…」
この数ヶ月だけで、いろいろ慌ただしく動きだしたな…
「親父の所もそうだけど、青山の家にも遊びに来いよ…」
「はいもちろん…あそこから出てから、まだそんな経っていないのに、なんだか懐かしいっすよ…」
今は弥生さんと椿ちゃんが住んでいるあの離れに、啓くんはずっと暮らしていたんだもんな…
「伊藤さん…ぁ、お父さんからは連絡あるのか?…」
「父さんからは直接ないんですけど…涼香さんが一緒にいて、よく連絡が来ます」
ああ、伊藤さんと一緒にいたのは涼香さんだったね…
「香澄ちゃんのお母さんが啓くんのお父さんと…なんか複雑だね」
栞には説明してなかったな、確か。
「元気そうなのは嬉しいですけどね」
啓くんは少し寂しそうだが、笑顔を作って見せた。
「まあ男なんてそんなもんだよ…啓くんのこと心配していても、なかなかそれを口には出しづらい…」
増して伊藤さんは、啓くんに対して負い目があるだろからな…
「そんなもんですかね?…」
「ああうちの親父だって、僕と会話らしい会話をするのは風呂の中だけだよ…」
「あっそういえば…匠兄ぃ、今朝恭介と一緒にお風呂入ったんだよねぇ…」
栞が会話に割って入ってきた。