ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 672
…まあ好きな人がいない家にわざわざやってくることなんて普通はしないもんね。
「それで…梓ちゃんも子供を身籠ってしまったと?」
「聞いていたんですね、純さん」
「お嬢様もそうだけど、この歳での決断は心も身体も大変だと思います」
純ちゃんは笑顔から一転真剣な表情で梓を見つめる。
確かにヤンママの離婚率は極めて高いって言うもんな…
もしそんなことになったら、梓は一人で子供を育ててなんていけないだろう…
「純ちゃんの言う通りだぜ…ちゃんと相手の男と話し合ったほうがいいんじゃないか?…」
僕は純ちゃんに習って、真剣な表情を浮かべる。
「もちろん、話すつもりだよ。でも、せっかく授かった命を無駄にさせたくはないの…」
「それは十分わかるさ」
真剣な眼差しで話す梓の頭に手を伸ばし、優しく撫でる。
「ありがと、匠兄ぃ、純さん」
「ちゃんと話し合いなよ」
「頑張ってね」
梓は小さく手を振って僕の病室を後にした。
「いい子だね、梓ちゃんは」
「ああ、ホントだよ」
「これからいろいろ大変だろうけど、私に出来ることがあれば何でも協力するよ…」
「ああ、その時は頼むよ…」
純ちゃんの好意は嬉しかった。
ただでさえ自分のことでいっぱいいっぱいの現状に増して梓の妊娠だなんて、どうしていいか分からないのが本心だった。
「もう青山家の人間じゃないし、原稿も仕上げないといけないけど、香澄のことも放っておけないから…元メイドだから、いろいろできるし」
「純ちゃん、ごめん、僕らが頼りないばかりに」
「いや、困ったときはお互い様って言うしね」
純ちゃんは笑顔で僕に言う。
「落ち着いたら、子供連れてお屋敷で生活するでしょ?」
「そのつもりだよ」
「だったら、一人で解決しようとせず、みんなをおおいに頼って欲しい。青山家の従業員のスキルは世界一だもんね」