ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 663
手が差し出され握手を交わす。
瞳さんの手は柔らかく、とても暖かかった…
僕の分身とも思える巧はこの手に抱かれ、甘い時を過ごしていたんだと思うと、なんだか感慨深いものがある…
「手まで鈴田くんにそっくりなのね…大きくて力強い…」
瞳さんは感心したようにそう言うと、僕の手を両手で握り締めた。
「瞳さんの手も、暖かいですよ」
「ありがと…」
瞳さんは一言そう言うと、自分の仕事に戻っていく。
その背中を見送る…強い人だと感じた。
「匠くん」
呼ばれて振り向く。
弥生さんがすぐ近くまで来ていたのだ。
「あっ;…あの人は何でも無いんだ…」
弥生さんの顔を見て、つい言い訳してしまう;…
「そんなことどうでもいいの…担当医の先生が…身近な人に来て貰った方がいいって…」
「えっ?!…」
僕の頭の中は真っ白になった…
「どういうことで…」
もう何も考えることができない。
弥生さんはそんな僕の背中を押す。
「匠くんは父親になるのよ、新しい命が誕生する瞬間に立会いなさい、ってこと」
「えっ…」
「香澄ちゃんは今、必死に頑張ってるのよ」
「身体の方は大丈夫なんでしょうか?…」
「子供たちは元気にお腹の中で動いているって…」
香澄は毎日いっぱい食べていたもんな…
予定より早くの出産でも、それだけ成長していたのかもしれないよな。
「それで香澄の方は?…」