ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 662
「澪とは高校の頃からの友人だったの…あるとき一緒にいて紹介されたのが鈴田くんで…そのとき思いとどまっておけば良かったのに、私ったら、一目惚れだったの」
「そうですか」
「……後悔しても遅いよね」
瞳さんは窓の外を見ながら言った。
「じゃあ、澪さんとは……」
「ずっと会ってはいなかったのだけど、最近になって、ばったり青山家で…」
「え?瞳さん、青山家に行ったことがあるんですか?」
「もちろんよ。この病院は青山家の寄付金なしではやっていけないのよ…、月に何度かは医院長が私たち看護士を連れてご挨拶に伺うの…」
「それって…和彦さんに会いに?…」
「それはそうよ…何たってあの家に殿方は、青山和彦しかいないんですもの…」
そこでまた、青山グループの規模の大きさと、和彦さんの存在の偉大さを思い知る。
僕はすごいことをしたんだと今更ながらに。
「澪さんと会って、瞳さんはどうされました?」
「意外とさばさばしてたかな…お互いに振られちゃったのねって」
「振ったのは鈴田巧本人じゃないでしょうけどね」
「うん…それからは元通りよ」
流石の2人だ…ある意味男より男らしいかもしれないよな…
「それで瞳さんは、鈴田巧とはもう会ってはいないんですか?…」
「そんなことは無いは…例え恋愛感情が無くなっていようとも、一時をあの人と一緒に歩んだんですもの、それでさようならっていうのは寂し過ぎるもの…」
瞳さんは一瞬遠い目をした後、僕に向かって微笑んだ。
「だからビックリしちゃったよ。鈴田くんがいきなり現れたって思っちゃった」
「それは、なんというかごめんなさい」
「ふふ、君が謝ることはないよ」
瞳さんは椅子から立ち上がる。
「私は最後の一仕事…君は奥さんを見守ってあげてね」