ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 664
「子供たちのために、今一生懸命頑張ってるわよ…そのためにも匠くんが傍にいて、見守ってあげることが必要なのよ」
「は、はい…!」
「さあ、行きましょ!」
僕は弥生さんに手を引かれ、香澄のいる病室まで向かった。
「旦那さん、もう少しですよ!」
病室まで行くと、看護士の方がそう僕に言う。
分娩台の上で大きく脚を開く香澄…
分かちゃいたけど、その大量なる鮮血を見ると、なんだか貧血を起こしてしまいそうだった;…
「さあ…」
香澄の股の間から顔を上げた女医さんに促され、僕は一歩前に進み出る…
「(香澄…)」
思いをそのまま口にしたいのは山々だが、今はただ頑張る香澄を見守っていることに専念する。
顔を歪め、必死になっていきむ香澄…母親になるために、力を振り絞っている。
僕が目の前にいるのも気づいていないだろう。
「(頑張れ、香澄!)」
祈るような思いで、手を合わせ目の前で頑張る妻に力を送る。
…その思いは、天に通じたのか、程なくして新しい命の産声にとって代えられる―
皺くちゃになった2つの胎児は、まるで母親を励ますかのように大声で泣き叫ぶ。
これが僕の子供…?
その実感はまだ湧いてはこなかった…
「頑張ったな香澄…」
熱く火照ったその頬を撫でる…
香澄はセックスでイッた後のような、安らかな顔をしていた。
「おめでとうございます、旦那さん」
「ありがとうございます…やっとホッとした感じです」
女医さんや看護士さんに声をかけられ、ようやく肩の荷が下りた気がした。
「終わったのね」
「母子ともに健康で何よりね」
お袋と弥生さんも病室の中に入ってきた。