ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 660
「そう、まだお若いのね…」
「ええ…身体の負担になってないかと…ましてや双子だと聞かされていたので」
「生まれるのが近いはずよ…後は彼女が頑張るのを祈るしかないわ」
「そうですか…」
突きつけられた事実。
後はもう、天に祈るしかないのか…
「ところで、ホントに鈴田くんじゃなくて…」
「柏原匠といいます」
「そう…私は唐沢瞳…」
「唐沢さんは鈴田…巧と、何かご関係があるんですか?」
「嫌だはぁ…鈴田くんそっくりの顔でそう言われると、なんだかショックを受けるは…」
「そう言うってことは…唐沢さんは鈴田巧とはそういう関係で?…」
「“唐沢さん”だなんてその顔で言われたの何年ぶりかしら?…鈴田くんは私のこと“瞳”としか呼ばないから、なんだかからかわれている気分になるはよ…」
「そう思うのも無理はありませんけど、どうも僕と鈴田巧は一卵性の双子みたいなんですよね…」
「そうなの…それは知らなかったわ、ごめんなさいね」
「いえ、僕も彼のことをもっと知りたいと思っていたので」
「あら、一緒に暮らしていたのではなくて…」
「いろいろな事情が重なりまして、生まれた時に別々の家庭に育ったんです…」
「それは…大変だったのね」
立ち話も何だからと唐沢さんはロビーに行かないかと提案する。
「唐沢さん仕事は大丈夫ですか?…」
看護士の仕事はハードだってよく聞くもんね。
「ええ夕べは夜勤でしたの、もうすぐ上がる時間ですから…」
徹夜明けか…疲れているだろうから話しは早々に切り上げなくちゃいけないかな…
「えっと、唐沢さんは…」
「瞳でいいよ、鈴田くんからはそう呼ばれてたから」
「…瞳さんは、彼とはどういう関係で」
「最初は親友の彼氏だったんだけど…いつの間にか、って感じ」
「交際していたんですか」
「そう、だね」
瞳さんはどこか浮かない顔をしている。
「もう終わってしまったということですか」
「ええ…向こう側の要求がね、結婚したければ仕事を辞めろ、って言われて」