ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 540
「そうだったんだ…僕はそんなことちっとも知りませんでした…」
「美恵子さんとはその頃からの付き合いで…今は大切な存在なんです…」
「あっ、ちょっと待って下さい…大切な存在って?…」
「匠さんも知ってますでしょ?…私が同性しか愛せないこと…」
「あ;…はい…、それじゃ…鈴田美恵子さんも…?」
「はい…ご主人様には内緒にしてくださいね」
「ああ…もちろん」
杏さんが鈴田美恵子と関係しているなら、話に入り込みやすい。
僕は思い切って尋ねてみた。
「鈴田さんの息子に杏さんは会ったこと、話を聞いたことはあるの?」
「美恵子さんから話しは聞くんだけど、残念ながら会ったことは無いのよ…」
空港で見掛けたのがその息子だってことには、気づいてないんだな…
「何て言ってました?鈴田さんは…」
杏さんの作ってくれたソーダ割りを口に運びながら聞いてみる…
「子供の頃は、それこそお人形のように溺愛してたみたいよ…大人になるのが辛かったって言っていたもの…」
それだけ溺愛するのだ、実の子なのかな…
それが脱毛処理とどこで繋がるのか、ちょっとわからないけど。
「鈴田さんは、その息子さんを後継ぎにすると考えているのかな」
「お仕事の話まではしなかったので、ちょっと…」
杏さんはカクテルをくいっと飲み干す。
「それだけ可愛がっているなら、鈴田さんは後を継がせたいんじゃないですかね?…」
僕は杏さんに続けとばかりにグラスを空けた。
「いえ…美恵子さんというよりも、先代の会長さんが望んでいらしたと聞きましたけど…」
杏さんは琥珀色の液体を僕のグラスに注ぎ足してくれる。
「先代の会長?…」