ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 510
「ん?…どうした?」
「家を空けてしまってる間…ずっとお父様のことが心配でした…」
「香澄…」
「いろいろあったのに…ゆっくり話しをする時間も取らずにごめんなさい…」
「いいんだ、いいんだそんなことは…」
和彦さんは、香澄の頭を優しく撫でる。
「私のことなど気にかけなくても…香澄が幸せなら、それでいいんだ」
「お父様…」
香澄の瞳に涙がじわっと溜まる。
和彦さんと香澄に、血のつながりはない。
それでも、それ以上に、親子としてのつながりがあるように見えた。
香澄は香澄なりに、僕には言えない葛藤があってんだと今更にして思い知らされる。
父親だと思っていた和彦さんの、実の息子である僕と結婚するって、僕よりも心中は複雑かもしれないな…
ごめん…香澄…
僕は香澄と和彦さんの元に歩み寄り、その2人の身体を包むように抱き締めた。
「匠くん…」
「匠さん…」
「2人とも、さぞ苦労が多かったと思います…これから、力不足とは思うけど、僕も一緒に…」
「ああ…匠くんが香澄と結ばれたことで、私もやっと安心できた、そう思ったよ」
「お父様…」
香澄の我慢は、そこで限界を超えた…
大粒の涙を零し泣き崩れる香澄を、僕はしっかりと支える。
そういう僕も、心中の不安からか一緒に肩を震わせてしまう…
「苦労が多かったのは匠くんも一緒だ…これからは我慢せずに、何でも話してくれよ…」
和彦さんが僕の背中を擦ってくれる…
その優しさに僕の涙腺は崩壊してしまう…
香澄が身重のことも、自分が28にもなる大人の男だということも忘れ、迷子の子供のように泣いてしまった。