ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 511
…こんなに泣いたのはいつ以来だろう。
まるで子供の頃に戻ったようだった。
「落ち着いたかな?」
「はい…すいませんでした…」
「謝ることないさ、人は誰しもそういう気分になるもんさ」
隣の香澄はまだ込み上げるものを必死でしゃくり上げている。
「気分転換に風呂に行こうか?」
和彦さんは笑ってそう言った。
和彦さんと2人っきりで湯槽に浸かる。
こないだみたいに、身体を洗ってくれるメイドちゃんはいなかった。
「それにしても和彦さん、めちゃいい身体してますね。」
引き締まった筋肉は、ジムクラブのCMで見たみたいにしなやかだった。
「そうだこの家に来たら、匠くんも家のジムに通うといい…ちゃんとしたトレーナーもいるから、こんな身体だったら直ぐになれるさ。」
「いやぁ、僕にはちょっと…」
確かに鍛えなくちゃとは思ってるけど、和彦さんのようになれるとは思えないなぁ…
「専属のトレーナーさんまで…すごいですね」
「ああ、やりたいときに集中してね。ちなみに、トレーナーは若い女の子でね、現を抜かして香澄に呆れられることがないようにな」
「あ、見かけましたよ今日…確か彩乃さん?…」
「おお彼女ともう面識があったのか。」
「いえ、すれ違っただけですから…マウンテンバイクでカッコよく駆け抜けていきました。」
「そうか、彼女は元々は涼香の専属だったんだ…それがこんなことになってからは、私や従業員たちのトレーナーとして頑張ってくれているんだ…」
涼香さんは有名なモデルだったから、専属のトレーナーもいた、それが彩乃さんだ。
「その彩乃さんは、涼香さんにはついていかなかったんですね」
「ああ…彼女にも告げず去ってしまったからね」
和彦さんは、涼香さんのことはあまり話したがることはない、そう思った僕は話題を変えようと考えた。
「そういえば、彩乃さんはお帰りに…」
「いや、今日は彼女にも泊まって貰おうかとね…匠くんも会ってみたいだろう?」