ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 503
「ふふっ、お世辞でも嬉しいなぁ…」
「お世辞なんかじゃないですよ。僕は、弥生さんを本当に尊敬してるし、今でも大好きな人だと…」
「ふふ、その言葉は香澄ちゃんにじゃないの?」
「もちろんです…でも、弥生さんとのことは、ずっと忘れない、大切な思い出ですから」
「ありがとう、私もだよ」
弥生さんの腕が伸びて来て、優しく抱きしめられる…
僕もその華奢な背中をふんわりと抱き、そのハグに応えた。
「おやおや、お邪魔だったかな?…」
両開きの扉が開き、そこに和彦さんが立っていた。
「ぅあ?!…あっ、お久しぶりです!…」
弥生さんと思わず身体を離し、2人して直立不動になってしまう。
「ははは、そんな顔しなくていいよ。匠くんが弥生さんと親しいのは僕も知ってる」
「すいません…」
「謝ることないさ」
和彦さんは笑顔で近くのソファーに腰掛けた。
「美味しそうなクッキーだね。食べてもいいかな?」
「ええ勿論ですは。椿が作ったんですよ。」
弥生さんはティーポットから紅茶を注ぎながら言う。
「ほぉ〜椿ちゃんが…あの子もそんなことが出来る歳になったんだな…」
「ええ、私たちも歳を取る訳よね…匠くんなんて、もう28なんですもの…」
「あ、っ;はい…」
突然自分に振られて、僕は焦ってしまう;
「そうだね…そう考えるとね…僕と君が出会って28年経つわけだね」
「そうね…」
僕を見ながら、懐かしそうに振り返る2人。
…まあそれも仕方ないといえば、ね。
和彦さんにとってはそのときからずっと責任を背負い続けてきたのかもしれないんだから。
「私は準備しなくちゃいけないから、また後でね」
弥生さんが席を立つ。