ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 366
「あ、青山くん…どうして…」
お袋がなんとか言葉を絞り出す。
「君にはずっと辛い思いをさせてしまった…もちろん先生にも…それに、匠くんに、本当のことを言わないといけないと思って…」
和彦さんは、そう言ってお袋に頭を下げた。
「あ、そのことだったらもう…、それよりも、青山くんはどうしてそれを知っているの?」
お袋の声には疑問が満ちていた。
そういえばお袋は、和彦さんには黙って僕を産んだんだっけ…
「知ったのはつい先日さ、それこそ匠くんに会った時は全く知らなかったさ…」
「弥生?…」
「ああ…でも彼女を攻めないでやって欲しい、匠くんに会って胸騒ぎがしてね…親友だった弥生さんなら何か知っていると思って、無理に聞き出したんだ。」
「そうなの…」
お袋は小さくつぶやいた。
「匠くん…いるだろう?」
「はい…」
和彦さんにそう言われて、玄関の前に出た。
「君にも、今まで申し訳ないことをしてきた…あのとき初めて会って、気づいたんだ…」
和彦さんの声が震えている。
「あの…僕も、いろいろ聞きたいことがあって…」
「ああ…何でも答えるよ…」
「此処じゃなんだから入って…」
お袋が和彦さんをリビングに招き入れる…
「なんだか緊張するな…こないだ一緒に酒を飲んだ時とは大違いだ…」
「僕もです…あの時は2人とも、何も知らなかったんですもんね…」
ついこの前のことなのに、随分と前のことのように思えた…
「ごめんなさい…私がいけなかったのよね…実の親子でありながら互いの存在を知らないなんて…本当にごめんなさい…」
「いや…君は悪くないさ…悪いのは全部僕なんだ」
お袋の言葉を、和彦さんはすぐに否定する。
和彦さんは、僕に向き直って言う。
「もう知ってると思う…匠くんの父親は、僕だ」
「ええ…」
「今まで申し訳なかった…」
そう言って俯く和彦さんに、僕は何も返せない。
「聞きたいことがあると言ったけど、なんだろう…何でも答えるよ」
「ええ…あの…香澄ちゃんの父親は、和彦さんですか?」
その言葉に、和彦さんははっと驚いたような顔をしたが、すぐに元に戻り
「鋭いな…」
そして、落ち着いた口調で
「あの子の父親は、僕じゃないんだ…」