ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 33
啓くんがペコりと頭を下げる横で、梓は膨れ面をつくっていた。
…啓くんは尻に引かれるタイプだな…
僕はほくそ笑みながら、香澄ちゃんの手を取り、2階へ向かう。
こつん…
階段の途中で香澄ちゃんが僕の尻に頭をぶつけてくる。
「どうした?」
「ううん…何でもない…」
「疲れた?」
「ううん…そんなんじゃないょ…」
梓と啓くんを見て、香澄ちゃんなりに思うところがあったりするのか。
…まあ、深く迫るのは今はやめる。
2階の僕の部屋。
ここにやってきたのも随分と久しぶりだ。
東京に行って以来、誰もここに立ち入ったことはないはずだからね。
「ここが匠さんの部屋ですか」
「僕もここに入るのは5年ぶりくらいだからね」
ギィーと音をたてて扉は開いた。
薄暗い空間の中、カーテンの隅から太陽光が線のように差し込んでいた。
「へぇ〜匠さんの部屋素敵ぃ〜」
香澄ちゃんは部屋の中央に行くと、フローリングの上でくるくると回った。
…あ、パンツ見えてますけど…
僕は親父同様に鼻の下を伸ばし、無邪気な香澄ちゃんの姿を微笑ましく眺めた。
部屋は綺麗に片付いている。
もともと出るときに掃除していたが、今でもお袋が定期的に掃除してくれているのだろうか。
ベッドや本棚、机もそのままだ。
…机の上のパソコンもそのまま。
葵あたりが使いそうな気がするが、そうではないのかな?
「いいですねぇ〜、パソコンも漫画もたくさんあって」
香澄ちゃんは僕の部屋を見回して羨ましそうに言う。
「香澄ちゃんの部屋にはないの?」
僕はベッドに腰を下ろす。
「パソコンは私専用のPCルームに何台もあるぅしぃ…漫画だって図書閲覧室に行けば発売前のものだって、読めたりするぅんですけどぉ…」
…おいおい、君の家は学校かよ?…てか、発売前のものが読めるって、何者よ?
「でもねぇ…こんなにぃ小じんまりと、何もが手に届く位置にあったりするといいでぇすよねぇ〜」
…小じんまりって、一応6畳はあるんですけどね。
「うふふ♪。ここで匠さんはいろんなことしたんでぇすねぇ〜」
…いろんなことって、またHなこと考えてない?
香澄ちゃんは僕に擦り寄るように、近かづいてきた。