ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 225
携帯番号を渡し、僕は面接会場を出る…
自分の顔が高揚しているのは、鏡を見なくても分かった。
思いがけずに遥さんに再会したことで、気持ちは興奮していたのだ…
面接を待つ若者が、そんな僕を怪訝な目で見ていた。
もしかしたら、遥さんの笑い声が聞こえいたかもしれなかった…
僕は素知らぬ顔をつくり、トイレへと逃げた。
それにしても、遥さんが青山グループの本社で働いていたとは…
つくづく人間関係の狭さを思い知る。
…普通の面接にはならなかったけど、いい時間を過ごせたのは間違いなかった。
トイレを出た僕は、ロビーの椅子に座って待つことにした。
考えてみると遥さんは僕の初恋の人で、弥生さんとそうなる前は、ずっと憧れの存在だったんだ…
弥生さんと付き合い出してからは、その思いは急速に萎みはしたけど、それでも好きだという気持ちは変わり無かったんだ。
だから、酒に酔った曖昧な記憶の中で遥さんを抱いたことは、今まで生きてきた中での後悔として、三本の指に入る事と言ってよかった…
…しかも、遥さんはあの時が初めてだと言ってた。
周りを引っ張るタイプの遥さんだから、付き合っている人がいたんじゃないかって思ってもいた。
ロビーでその時を待ちながら、昔のことを思い出す。
「…あっ」
携帯が振動する。
遥さんからだった。
「ゴメンゴメン…昼は時間を取れそうも無いのよ…よかったら夜にして貰えない?」
「あ、別に構いませんけど…」
「よかった♪夜の方がゆっくりできるもんね〜」
"ゆっくり"の言葉だけが、やけに意味深に感じてしまい、僕は一人顔を赤くする…