ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 216
「ごめんね、勝手に話進めちゃって」
「いや別に…スーツ、ないといけなかったかな…」
派遣とか期間工だったらそこまで堅苦しくする必要はないと思うが…
…大企業だったら話は違うか。
「俺の着てくか?」
「え、親父、いいのか?」
「ああ、身だしなみは大切だぞ。第一印象で判断されることは多いからな…」
「助かるよ。なかなか服装まで気が回らなくてさ…」
「お兄さんはそういうこと無頓着ですからねぇ…なんならパンツ返しましょうか?…」
2階から下りてくる啓くん…
“パンツ返す”なんて言って、親父とお袋が妙な誤解したらどうしてくれんだよ…
「別に代えはいくらでもあるから啓くんが穿いたのは洗うわよ」
お袋、啓くんが僕のパンツはくのは日常だったんですか!
…まあ、梓と付き合ってるんだから日ごろ家に来るのはわかっていたが
「古いスーツだけど、サイズは問題ないから着てけよ」
「ああ、今日一日だけだと思うけど…ありがとう」
皆の前でスーツに着替える。
普段だったら気にもしない、お袋の目が気になった。
案の定、ズボンを脱いだところで
「匠〜そんなくたびれたパンツ穿いてないで、もっとちゃんとしたの無かったのぉ?」
別に面接でズボンは脱がないだろうに…
「やっぱ僕の穿いて行きますぅ?」
啓くん…それは死んでも厭ですから;…
「仕事場は女の子が多いから、見た目と服装はしっかりしないとだめよぉ」
「…だからって、パンツまではさすがに」
「…まあねぇ」
とはいえ、新品のパンツなんてあるのだろうか。
…啓くんが穿いているもの除いて。