ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 175
…杏さんは知っているんだ…
僕は弥生さんと家の両親しか知らないと思っていたので、なんだか意外だった…
「私も誰に聞いた訳でも無いんです…ただ先生の家にご厄介になっていた時、先生と操さんが話しているのを偶然聞いてしまって…」
「…えっ、家で生活していたこともあるの?」
「…はい…ご存知ないことでごめんなさい。あのときは操さんの厚意に甘えさせて頂き…」
…僕はずっと実家を出てたから、その間か。
とすると、妹たちは杏さんのこと知ってるのかな?
「…で、親父とお袋はどんな話をしてたの…?」
「『そろそろアイツにも…本当のことを伝えるべきなんじゃないか?』…って先生が操さんにおっしゃって…」
この場合、"アイツ" って言うのは、僕のことなんですよね?…
「それで、お袋は何て?…」
僕の問いに対して杏さんは、何かを迷っているかのように口隠りながら、窓辺の方に視線を移した。
「あの子…つまり、匠さんが帰ってきたら考える、と」
…そのときのお袋は僕が実家に帰ることを想定していたのだろうか。
…しかし話の内容が見えてこない。ますます気になってしまう。
「…その後の会話は…?」
杏さんに尋ねる。
「ええ私…そんなドラマみたいなことがって、驚いてしまって…」
奥歯に物が挟まったようにしか言わない杏さん…
やはり杏さんに聞くのは酷なのか?…
「分かったよ…その続きは親父から聞くさ…無理に聞きだそうとして悪かったね…」
「私の方こそごめんなさい…役立ちたいって、自分から言っておきながら…」