ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 156
「小さい頃は身体が弱かったらしいんです…それでご主人は超一流の家庭教師たちを雇って、桜さんと一緒に学ばせたそうなんですよ。」
「学校にも行けないほど悪かったの?…」
「ええ、今でも激しい運動を長時間するのは、命に関わるらしいですよ…」
…命に関わるって…香澄ちゃんにそんな持病があるなんて、ちっとも知らなかったよ…
「でも勘違いなさらないで下さいね…余命幾許もないとか、近々入院するとか、そういうことは決してないですから」
「うん、わかってるよ」
僕の表情を察したのか、純ちゃんはそうつけ加えた。
…そんな話をしているうちに、香澄ちゃん専用のキッチンルームにたどり着く。
「それでは私はこれで…」
「あれ?行っちゃうの?」
「ええ、これから先はお嬢様と柏原さん、お二人でお楽しみください…」
「なんだよそれ?…朝飯食うだけだろ?…」
「それだけであったとしても、お嬢様にとっては貴重なお時間なんですよ。」
「そうなの?…女の子って分からないよなぁ〜」
純ちゃんはニコッと笑って
「あとはお二人でごゆっくりどうぞ」
と言って、その場を離れていく。
…なんなんだろう、と首をひねりながらも香澄ちゃんと2人の方が話せることもあるんじゃないかと前向きに考えておく。
専用ルームのドアを開け、中に入る。
入った瞬間、美味しそうな匂いが部屋一面に広がった感じがした。
キッチンでは、ピンクのエプロン姿の香澄ちゃんが、軽快な音を響かせながら野菜を切っている。
「うわぁ〜朝から凄いご馳走だなぁ〜」
「あ匠さん!…おはようございま〜す」
「ゴメンゴメン…朝飯の準備をしてくれているなんて思いもしなかったから、随分と遅くなっちゃたね…」
「いいんです、いいんです…こうやって来てくれたんですから、安心しましたよ…」
「へ?何か心配してたのか?」
「だって夕べ…何も言わずに出て行っちゃったから…」