ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 157
…そうか
香澄ちゃんと桜ちゃんのやり取りを聞いて、その後、外へ出てしまったんだっけ…
「ごめんな、何か、あの時は居ていいのかと思っちゃったもんだから」
「匠さんに嫌われちゃったと思って…」
「そんなことで嫌うほど僕は軽い男じゃないよ」
「よかった…」
まだ昨日のことが心に残っているようだが、香澄ちゃんはいつもの香澄ちゃんだった。
「心配するな…これからも行き違いがあるかもしれないけど…僕の本来の気持ちは出会った時と、何ら変わりはしないから…」
「匠…さん…」
目を潤ます香澄ちゃんの頭を抱き寄せ、そのいい香りのする髪に唇を寄せる…
「ありがとうございます、匠さん」
「うん」
「…朝ごはん、食べません?私、一生懸命作ったんですよ」
「うん、食べたいな、香澄ちゃんの手料理」
「ふふ、たーんと召し上がってくださいね?」
キッチンの隣の小部屋に、テーブルと椅子が置いてある。
大きな窓からは広い庭が一望できて、まるで郊外のオシャレなレストランのようだ。
「ここにはメイドたちは誰も来ませんよ…配膳もお灸時も全部私一人でするんです…」
「いいの?なんかお嬢様にしてもらえるなんて感激だな〜」
「お嬢様だなんて言わないで下さいよぉ〜!匠さんにとって私はただの小娘に過ぎないんですからぁ〜」
いえ、いえ、ご謙遜を…香澄ちゃんが凄い子だって、純ちゃんから聞いてしまいましたから…
テーブルに並べられるメニュー。
どれも一介の小娘が作るような料理ではない。
「すごいね、香澄ちゃん。これだと店一つできるんじゃない?」
「そんなことないですよ〜。これ作るのに朝早起きして今ようやく出来たところなんですから〜」