ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 116
再び抱き締める…
胸板に涼香さんの露となった乳房が押しつぶされる…
僕の熱をもった存在も、涼香さんは腹で感じているのだろう…
引き返えせねば…
今ならまだ引き返せる…
そう思いながらも身体は涼香さんを求め…残った衣服を剥ぎ取っていく…
何も身に着けていない涼香さんの身体は、とても綺麗で、一種の芸術品のような美しさがあった。
啓くんやそのお父さんが虜になってしまう理由もなんとなくわかったような気がした。
「匠さん…このまましてしまっても、いいのでしょうか…」
「僕も、正直、どうしたらいいのかわかりません。でも、ここで引き下がるのも、なんだか後味がよくない気がして…」
互いにこの先に進んではいけないことは分かっていた…
先に進んで…香澄ちゃんを傷つけてはいけないことも:分かり過ぎる程…分かっていた…
後ろ髪を引かれる思いで、身体を離す…
それでいて、また引かれるようにしてまた抱き合い…唇を重ね合った…
…お互いに服を脱いだとはいえ、それから先に進むことができなかった。
僕にしても涼香さんにしても脳裏に浮かんだのは香澄ちゃんの笑顔。
「…やっぱり、できません」
「匠さんもですか…私もですよ」
お互いに身体を離し、視線をそらしてしまう。
その時、母屋の方から涼やかな鐘の音が聞こえきた…
「あの人が帰ってきたんだは…」
あの人…?ああご主人か…
僕たちはこの鐘の音に救われたように衣服を着始めた…
何も無かったような平然とした顔で離れを出る…
それでも僕は、涼香さんを愛し始めている自分を封印しなければならない今の現状が、口惜しかった…