ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 117
どこか心残りなところと、ホッとした気持ちを両方残しながら、僕と涼香さんはお互い、服を着た。
「さっ、お出迎えしないと」
「僕、ご主人にお会いして大丈夫ですかね?」
「匠さんの人柄は、私が十分感じましたから。きっと受け入れてもらえますわ」
涼香さんは笑顔を見せた。
先ほどの涙は、もうなかった。
「お部屋でお待ちください」
涼香さんにそう言われ、僕はさっきまでいた客間に戻る。
誰もいない部屋は、思っていた以上に広く感じた…
何気に窓辺に行き外を眺める。
眼下には広大な西洋庭園が広がっていた…
…これを啓くんの親父さんが手入れしているのか…
そう思うと、庭師という仕事に尊敬の念が湧いてくる…
…いやしかし、皆さんお父様のお出迎えに行ってらっしゃるのだろうか。
ここまで誰も来ないと不安で仕方ない。
涼香さん曰く、昔はそのお父様にすら心を開かなかった香澄ちゃん…今では改善されたのだろうか。
それ以外にもそのお父様…和彦さんにはいろいろお尋ねしたいことが山ほどある。
「匠さんっ」
そんな時、予期せぬ声。
でも、その声はなんだかありがたかった。
孤独の不安を打ち消してくれたのは、ちょっと意外?弥生さんの娘・椿ちゃんだった。
「椿ちゃん、どうしたの?」
「クス…匠さんが何してるのか気になったんだぁ」
「ご主人の出迎えはいいのかぁ?」
「はいぃ、私はここのお家に雇われいる訳じゃないもぉの〜」
確かに…弥生さんやメイドちゃんたちにとっては、ここは職場である訳だけど、椿ちゃんにとってはそんなこと関係無いもんな…
お昼から今まで、椿ちゃんとはマトモに話せてなかったな。
最初はオドオドしてたけど、打ち解ければ笑顔の可愛い子だ。
「匠さんは、ママと仲が良かったって聞きましたよ」
「うん、まあね」
「どうやって知り合ったんですか?」
「昔、家が近所同士で、弥生さんと僕の母さんが同級生でね…」