ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 114
レイプ……
それは男として最もしてはいけない、罪深い行為だと僕は思っていた…
「最低な経験をなさったんですね…」
僕の胸は詰まった…
同時にそんな体験をしていながら、今では奔放に性を謳歌している涼香さんに何があったのか、興味深かった…
「…確かに、初めては最悪でしたわ…でも、それも仕方のないことだったんです」
「…と、言いますと?」
「私の家は貧乏で、両親は借金を抱えていまして…私の身体は、その身代わりでした…」
「そんな…」
「悪く思わないで下さいね。そのために家の借金が減ったので…」
「でも、そんな経験をされた涼香さんが、何故今は…」
「最初が最悪だったからこそ、今は素敵な経験ができると思うんです。それに、あの頃の気持ちを忘れることも…」
涼香さんの瞳に、光るものを見た。
小さく鼻を啜り…涼香さんは囁くように続けた。
「そんな私の自分よがりな行いが…あの子を傷つけてしまった…」
「香澄ちゃんをですか?…」
「ええ…それまで父親にでさえ気を許さなかった男性嫌いの香澄が、やっとその頑なな蕾を解し始めた執事の男性への初めてともいえる恋心を…意図も容易く摘み取ってしまったのは…母親である…私なんですもの…」
…涼香さんは俯いて、か細い声で言った。
「…私と彼の関係を知った香澄は、しばらく心を閉ざし、部屋に籠って一切口を聞いてくれませんでした…そして彼も、これ以上私たちの関係を悪くさせないよう、自らここを去ったのです」
涼香さんの肩が、ふるふると震えるのがわかった。
「…だから、私は、香澄を傷つけたくなくて…もう、あの子の好きになった人には手を出さないよう、心に決めて…」
涼香さんは、大粒の涙を流し、それ以上言葉を発せず、泣き崩れた。
「涼香さん!…」
それは条件反射のようなものだったのかもしれない…
咄嗟に動いた身体は涼香さんの震える腕を引き寄せ、頭を胸に抱いていた…
「匠…さん…」
声を詰まらせながら涼香さんはそれを拒み…腕を突っぱね僕から離れようとする…
それでも僕は腕に力を込め、その膨よかな唇に自ら唇を重ねてしまった…