牝奴隷たちと御主人ちゃん 41
「見事な動きだ!」
少年は再び船長室から外部の状況を見えるようにした。帆布が光を放ち周囲を照す。
通路の壁が流れていくように見える。途中でガタンと揺れた時は触腕がギリギリで帆船のそばをかすめていく。
「ぶつかるぞ!」
「浮上します!」
通路が行き止まりで真上に通路が続いていた。ギルが叫ぶ。そのまま壁に激突せずに真上に船首を向けて回転しながら浮上していく。
派手な水しぶきを上げて、帆船が水面から飛び出した。
「あきらめたか……」
少年がガーバリムの移動の気配が停止したのを感じた。
ガーバリムには狭い水路に、潜り込もうとして完全に肉塊とつまってしまった。
それでも触腕を肉塊からうじゃうじゃ生やして攻撃しているうちに、さらにはまって動けなくなったらしい。
「まずいな、これは」
船が飛び出した穴から、急激に海水が吸い込まれていく。水面に渦巻きができて、ゴーレム帆船が波に巻き込まれてしまう。
ガーバリムは海水を飲み尽くして、船もそのまま一緒に飲み込むつもりらしい。
水流に逆らっているうちに、広い石室の半分ほどあった海水が飲み込まれて、さらに空気を吸い込み続けている。
石室内部に突風が渦巻く。
水が少なく浅くなると、船は引きずられるように穴に向かって動いていく。
帆船が穴に落ちる寸前で、貪欲なガーバリムの吸い込みが止んだ。
広い石室で、ゴーレム帆船は水がなくなったせいで、横倒しになって引きずられてしまった。
それでも目立つ損傷はない。
水があれば倒れた船体を起こすことはたやすく、ゴーレム帆船ならできる。
しかし、このままではどうにもならない。
再びガーバリムの貪欲な吸引が始まれば、ゴーレム帆船は喰われてしまう。
横倒しになった船の周囲にわらわらと女性たちが集まってきた。
今度は人魚ではないが、全員全裸である。
その中にまざって、紫色のゆったりとした長衣をまとった小さな者が杖をついて立っていた。
(にゃんこ?)
サラは黒猫が長衣をまとって杖をついているのを見て笑ってしまった。
猫好きでサラの領地の街では猫が多い。
「女獅子だけに、猫は仲間なのだろう」と揶揄されることもあるのをサラも知っているが、気にしていない。
ギルは全裸の女たちが全員、いい体つきをしているので目を奪われている。
島に目の前の女たちを全員連れて帰ったら、財宝を持ち帰るよりも男たちはよろこぶだろうとギルは考えていた。
オルガは疲労困憊して椅子に座ったまま、ぐったり目を閉じている。
未知の怪物ガーバリムからギルを守るために全力で逃げまくったからだ。
ポチはギルのそばで、ギルの女たちを見つめる顔を見上げたあと、自分の胸のあたりを見て、眉をしかめた。
ぺたんこの胸元が気にくわないようだ。
「あれはケット・シーの神官らしいが、君は人魚の島について聞いたことはない?」
船が停止して落ち着いたらしく、祈りを捧げるのをやめて皇女ティアナがそばに来たので、少年が穏やかな口調で話しかけた。