牝奴隷たちと御主人ちゃん 30
(あれなら、全員捕まえて領主に売ればたんまり謝礼がもらえるぜ!)
奴隷商人に借金を返済中の青年は、雇い主の奴隷商人に相談して領主に話を持ちかけた。
領主の趣味は美少年好きで、実はこの青年も領主に目をつけられていた。
奴隷商人は旅人を捕獲して、この街の闇市場で領主の庇護を受けて売りさばいている。
(街で見かけた連中も、こいつも、まとめて変態領主に高く売りつけてやるぞ)
領主は女は売り、男は愛玩用に飼うのが趣味。
サラは変態領主の噂を聞いたことがあるので、警戒している。
世間知らずの皇女ティアナ、本当はドラゴンのポチ、そして御主人様。
いつ狙われてもおかしくはない。
「ここでいいかな?」
適当に宿屋を指さして全員に御主人様は言うので、サラはあわてて止める。
「街の宿屋では危険です。私の知り合いがいますから、そこで泊めさせてもらいましょう」
サラに連れられて訪れたのは、街の北のはずれにある館である。街中から外れてあたりはのとがというより、寂れている雰囲気である。
夕暮れ時で、にぎやかな街中から人とすれちがうことのない道を歩いていく。
それを途中まで尾行していた青年が見つかりそうだと諦めて、街の酒場にいる奴隷商人に報告した。
それを聞いた奴隷商人が舌打ちした。
(仕方ないな、こいつを売って領主の機嫌を取ることにしよう……)
一日、奴隷から解放されると思い領主の館に行ったり、獲物の旅人たちを尾行していた青年は、がんばったが残念な結果だったようである。
(尾行されていても、あんなに通行人に注目されてたらわからないわ)
サラは街はずれの古い館の前に来て、扉を叩く。
(これは珍しい客人たちを連れて来たものだ)
館の主人の初老の男が全員を見て驚き、皇女ティアナが手にしている書物を見て胸を高鳴らせた。
「それはもしかすると死霊祭祀書ではないですかな、いやはや、もし写本でも生きているうちに目にできるとは!」
もし、フィルがこの場にいたらすぐに館から出て行くと騒いだにちがいない。
ここは魔法のアイテムの収蒐家の館だった。
「お父様、お客様ですか?」
初老の男のあとから応接間に入ってきた若いメイド服の女性を見た少年が目を細めて微笑した。
「すばらしいものと暮らしているようですね」
「ほう、お気づきになりましたか」
魔法のアイテムの収蒐家。
盗品であれ関係なく自分の望むアイテムを集めてそれを仲間に自慢するのを生きがいとしている。
収蒐家にはめられて罪人にされたことがあるフィルにとっては、関わりたくない者たちである。
「メアリーといいます。街の連中がこの館のことを化け物屋敷などと言って近づかないので、これと暮らしておるのですよ」
「みなさん、こんばんは」
メアリーは表情を変えずに挨拶した。
笑顔の欠片もない。
「こんばんは!」
元気いっぱいにポチが返事をする。
御主人様はポチの頭を撫でると、ポチがへへっと照れたように笑って御主人様を見つめる。