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透明な滴の物語V
【同性愛♀ 官能小説】

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黒い雨雲-5

「うん。知っているわよ。でも聡美は佐和子さんを好きだった。一方的に。佐和子さんの方にその気がなくてもね」
佐和子が退職する時に、聡美が大泣きしたことを恵子は知っていた。

今、恵子の口から佐和子の名前が出てくるとは思わなかった。
聡美は先日のことを話した。
「あのね、恵子。その佐和子さんなんだけど、私、このまえショッピングセンターで偶然会ったのよ」
「あら!ほんとうに?よかったじゃない」
「それで佐和子さんの家にお邪魔したの。紅茶を飲んだわ。ほかにもいろいろね」
リビングで露わになった佐和子のふくよかな尻が思い出された。
聡美の顔が朗らかになっていく。

聡美にとって佐和子は身体に合った効き目を発揮する薬のような存在なのだ。
ナースの恵子はその様子を見て言った。
「聡美は、これからも頻繁に佐和子さんと会うと良いわ」
「どうして?」
聡美からそう言われると、返答に困った。
しかし、看護師としての経験から、人にとっての薬は錠剤だけではないことを知っていた。
リラックスした時間を過ごすことや、好きな人と会うことも良薬になるのだ。
「分からないけど、会った方がいいと思うの。長い間会わないと、聡美は寂しくなっちゃうのよ」
「ヘンなの」
よく分からない理論に聡美は笑った。

※※※※

翌日の仕事が終わりに近づいた夕方。
聡美は、ぼんやりと昨夜の恵子との時間を思い出していた。
『佐和子さんと会うと良いわ』
恵子の言葉がずっと引っかかっていた。

聡美は通用門から外に出た。
そこは、花壇がほどよく配置された手入れの行き届いた中庭だった。
会社の人なら誰でも入れるスペースだが、主として全館禁煙で追い出されたスモーカーの憩いの場所として使われていた。
今日は曇り空で肌寒い風が吹いているためか、そのスモーカーすらも見当たらなかった。



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